No.49:視線で殺されそう。


「う~……思ったより寒ぃ……」


 昼休み。俺は校舎の屋上にいる。

 11月ともなると、さすがに秋深しといった感じだ。

 特に今日は空気が乾燥して気温が低い。


 俺は女子生徒を呼び出して、来るのを待っている。

 女子生徒を昼休みに屋上に呼び出す。

 まるでイベント発生だ。

 まあ、ある意味イベントだが。


 バンッというドアを叩きつける音とともに、やけにスカートの短い女子生徒が現れる。


「あんた、一体どういうつもり?!」


 激怒りモードの茶髪ストレート……岡崎七瀬だ。


 俺は七瀬のスマホを乗っ取ってハックして、証拠と思われる部分をすべて保存した。

 それをLimeで七瀬に送りつけた。

 そして「話があるので、今日昼休みに屋上で待ってます」と付け加えた。


 因みにテレガラムの過去メッセージをチェックしていたら、ある動画ファイルを発見した。

 隆行から七瀬に送られたファイルだ。


 再生してみて驚いた。

 全裸で嬌声を上げる七瀬だった。

 いわゆるハメ撮りである。

 それもついでに送ってやった。


 余談だが、胸の大きさは服の上から見た程ではなかった。

 補正ブラの威力は絶大だと思った。

 全くの余談だが。


「まーまー先輩、落ち着きましょうよ」


「ふざけんなよ!」


「でもいいもの見せてもらいました。桜庭に嫌がらせしたこととか、隆行先輩と一緒にお薬飲んでたこととか、それに」


 俺は蔑んだ目で七瀬を見下す。


「先輩の身体、綺麗でしたよ」


「このーーっ!」


 七瀬が俺の襟首を掴み上げる。案外力が強いな。


「いいんですか? データを学校や警察、グループラインに送るのは簡単ですよ。ああ、ついでに」


 七瀬は人を殺せそうな視線で俺を睨んでいる。


「岡崎電気工業のウェブサイトから、メールしときましょうか?」


「クッ……」


 俺の襟首を掴んでいる手に、さらに力が入る。


 俺はなんだかんだ言いながら、七瀬は父親には頭が上がらないと睨んでいた。

 実際彼女のクラブ通いは、父親が家にいない日がほとんどらしい。

 小さい頃から厳しく育てられ、小遣いも父親から貰っているだろう。

 頭が上がらなくなるのは当然だ。


 ちなみに警察にはリークしても、動いてくれるかどうかは微妙だろう。

 七瀬たちがやっているものは、おそらくパーティーピルと呼ばれている類のものだ。

 これらは合法・違法のものが混在している。

 立件するには弱いかもしれない。


「そろそろ苦しくなってきたんですけど。放してもらえませんか?」


 七瀬は乱暴に俺の襟首を解放した。


「何が望み?」


「さすが先輩、話が早いです」

 俺は口角を上げる。


「俺と取引してくれませんか?」

 まあ、あんたに拒否権はないんだけどな。


「俺の望みはたった一つです」

 七瀬を正面から見据える。



「桜庭雪奈に、二度と近づくな!」



 俺は七瀬を睨みつけた。

 七瀬が唾を飲み込む音が聞こえた。


「アンタだけじゃない。アコもマリアも、水野隆行もその仲間も、アンタが絶対に近づけないようにする。それが条件です」


 俺は続ける。


「万が一雪奈に危害が及んだとき、データを思いつく限りのところにバラ撒きます」


 七瀬が奥歯を噛み締めているのがわかる。


 俺が考えたのはデータを盾に七瀬を抑えるだけでなく、他の危険分子からも七瀬自身に防波堤の役割をさせることだ。


 俺個人としては、七瀬を徹底的に弾劾したい。鉄槌を下してやりたい。

 しかし雪奈を守る、ということを考えたらこの方法がベストだろう。


「あんた、こんなことしてただで済むと思ってるの?」


 おー恐い。

 視線で殺されそう。

 まあムチだけだと、そうなるよな。

 アメも与えないと。

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