No.45:2番目の小道具


 俺たちは遅刻ギリギリで、校門をすり抜けた。


 今日最初の授業が終わった。

 今は1限目と2限目の間の休憩時間。


 俺はスマホを取り出して、Limeのトーク画面に文字を入れる。


 大山:朝言っていた写真、送りますね。

 添付ファイル:Pgene_photo1


 おれは2番目の小道具を添付して送った。

 拡張子かくちょうしのないタイプのファイル。


 速攻で返事があった。


 七瀬:なにも見えないよー。写真間違えてない?


 俺は口角を上げる。


 大山:すいません、間違えました。こっちでした。

 添付ファイル:Pgene_photo1.jpg , Pgene_photo2.jpg


 今度は拡張子.jpgのファイル。普通の画像データだ。

 この2つの画像データは、ネットから適当に拾ってきたPジェネの写真に、俺の全身写真をフォトショで切り抜いて貼り付けたもの。

 いわゆるコラ画像だ。

 この程度であれば、5分で作れる。


 プロが見れば一発で分かるが、素人がスマホで見る程度ではバレないだろう。

 とりあえず時間稼ぎができれば、それでいい。


 案の定、七瀬からは「すご~い! 今度さ、チケット取ってよ!」と返信があった。

「了解です」とだけ返しておく。


 俺は残りの午前中の授業を、あくびを噛み殺しながらなんとかこなした。

 昼休み、パンを買いに売店へ向かう。


 教室へ戻ってくると、4人が既に机を寄せて待っていた。


「浩介、待ってたよー」

「浩介君、遅かったね」

「売店、混んでたん?」

「ねーねー、今日は何パンなの?」


 どうやらこれがもう、俺の新しい日常らしい。

 悪くない。

 この日常も守らないとな。


 今日だけは、何も起こらないでくれ。

 俺は祈るような気持ちだった。

 朝は昇降口周辺に、見張りの先生がいた。

 今日雪奈のクラスは体育の授業はない。


 祈りが通じたのか、今日は何も起こらなかった。


 俺は雪奈と一緒に帰ることにした。

 隣の雪奈は、時折俺の顔をチラチラと見上げては上機嫌だった。

 前髪を上げているのが、よっぽどお気に入りらしい。


 しかし相変わらず周りの生徒からの視線が痛い。


「雪姫だ」

「隣の男、誰だ?」

「あんなイケメンいたか?」

「俺知ってるぞ。たしか高橋だ」

 もはや一文字も合ってねえ。


 雪奈は大丈夫と言ったが、俺は雪奈を家まで送ることにした。

 万が一のことがあってはいけない。

 雪奈が家の中に入るのを見届けて、俺も自宅に戻った。

 今夜はもう一仕事、待ってるしな。


 ………………………………………………………………


 自宅に戻った俺は、倒れこむようにそのままベッドにダイブした。

 そして起きたのが26時。つまり深夜2時だ。

 8時間以上寝たことになる。

 あーすっきりした。

 腹減ったな。


 俺はカップラーメンを平らげる。

 いいかげんカップラーメンにも飽きたな。

 雪奈が作ってくれる弁当が恋しい。


 それからシャワーを浴びて、パソコンの前に座った。

 時刻は深夜3時。


 俺はPC画面に、コマンドプロンプトを開く。

 そして真っ黒で無機質な画面に、コマンドをタイプした。

 俺は祈るような気持ちだった。


「さてと……本番環境でも、ちゃんと働いてくれよ」


 大きな深呼吸を一つ。

 エンターキーをパンッと叩いた。


 プログラムが走り出す。

 しばらくして、モニターにエミュレーターソフトのウィンドウが開いた。

 ウィンドウの中は、まだ真っ黒だ。


 8秒経過した。

 ダメか?


 俺は祈った。

 頼む!


 するとウィンドウの中に、縦長のスマホのホーム画面がふわりと現われた。



 だ。



「よしっ!」



 俺は七瀬のスマホを乗っ取ったハックした

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