同居人は宇宙人

日々菜 夕

第1話

 この物語はフィクションです。登場する人物。地名、団体名等は全て架空のものです。




 バイトが終わり夕食のカップ麵(そば)を食べ終え宿題でもしようかという時だった。

 チャイムが鳴ったので先輩がまた差し入れでも持ってきてくれたのかな?

 そんな気楽な気持ちで確かめもせずにドアを開けたら変なヤツが居た。

 端的に言うのならば古いブリキのおもちゃ。背丈は俺と同じくらいだろう。全体的に灰色が多く。ボディーはドラム缶みたいで、頭は一斗缶を横にした感じ。そこに描かれた目は懐中電灯に赤い布を被せたみたいに淡く光っていて鼻はなく口は歯がむき出しになっていて金色に塗られていた。耳は大きなとんがりコーンみたいで黄色に塗られている。腕と足は蛇腹のホースに似ていて手には野球のグローブほどもある手袋をしている。靴の代わりに四角いお菓子の缶でも履いてるみたいだった。

 何も見なかったことにしてそーっとドアを閉めようとすると、若い男っぽい声色で「縁者が遠路はるばる訪ねてきたのだ。そのように冷たくせんでもよかろうに」なんて言いやがった。


「悪いけど、俺にそんな変な格好した親類は居ないはずだ」

「ふむ。もしやおぬしにはこのスーツが視認出来るのか?」

「視認もなにも、変人にしか見えねぇ」

「では、尋ねるが、ここ最近変な格好をした輩を見かけた記憶はあるか?」

「たった今、目の前に居るな」

「ふむ。吾輩以外には見かけた記憶はないか……」


 まるで考え事でもするかのようにあごと思われる部分に手を当てているようなしぐさをする。


「なぁ、特に用事がないなら帰ってくれないか?」

「いや、元々挨拶がてら泊めてもらうつもりだったのだが、奇特な目を持っていると知った以上。ここはぜひとも協力をしてもらおう」

「や、なんでてめぇみてぇなの泊めなきゃなんねぇんだよ! それに協力ってなんだよ⁉ するわけねぇだろうが!」


 本来なら見た目だけで、見限って当然のヤツだ。

 少なからず、言葉を交わしただけでもじゅうぶんだろう。

 当然俺は、ドアを閉めようとした。


「もったいないのぅ。せっかく儲け話をもってきたというのに」

「どうぞ、お入りくださいませ」


 一流のホテルマンにでもなった気分で迎え入れた。

 いくら見た目が怪しくったって、金が絡めば話は別だろ?

 危ない橋を渡ったヤツにしか得られない物がこの世には確かに存在するのだ。


「うむ。聞いていた通りの性分で助かる」

「そりゃぁ、そうですよ。お金はあって困るもんじゃないですからね。えへへ」


 ブリキのロボットみたいな恰好をしたヤツが玄関で靴を脱ぐしぐさをすると……


 ――まじか!


 玄関には黒いスニーカーが増えていた。

 代わりにお菓子の缶みたいだった下の部分が少し欠けている。

 でも、そんな小さな事にはかまっていられない。


「なにも、ないところですが、どうぞどうぞ」


 小さな丸テーブルの前に案内し座ってもらう。

 本来なら座布団の一つでも出したいところではあるが、それすら俺は持っていない。

 畳の上に直接座ってもらうしかないのだ。


「それにしても、本当に何もない部屋だのう」

「えぇ、そりゃもう貧乏暇なしって言いますからねぇ。えへへ」


 なにせ両親が海外に行っちまってからはギリギリの極貧生活をしいられてきたからな。

 それとおさばするチャンスが転がって入ってくるとは思ってもみなかった。


「それで、金儲けの話って言うのを詳しく、教えていただけないでしょうか?」

「うむ。端的に言うのならば人探しに協力して欲しいのだよ」

「人探しですか?」

「ちなみに懸賞金は200万」

「に、にひゃくまんえん!」


 それってなに、学食のかけそばが100円だから、え~と、何日分んだ?

 って、よくわからんが、腹いっぱい食ってもお釣りがくることだけは間違いがない! 


「つまり吾輩とおぬしで、半分にしても100万円は手に入るという話なのだよ」

「のる! 乗ります! って、いうかやらせてください! お願いします!」


 当然、土下座をする勢いで拝み倒した。


「なにを言っておる。協力を申し出ているのは吾輩なのだ、頭をあげい」

「ははーー」


 言われるまま、頭をあげた。


「それでは、詳しい話をする前に自己紹介といこうかのう」

「それも、そうですよね。俺は――」

「よい。おぬしの事は聞いておるゆえ吾輩の事を話そう」

「そうですか、分かりました」

「まず吾輩は、おぬしらが言うところの異星人である」

「は……?」

「本名は名乗れんゆえ、この星では宇宙人(うちゅうじん)と名乗っておる」


 まんまじゃねぇか!

 これっぽっちも隠す気がねぇ!

 って、ゆーか!


「異星人って、いいますと、アレですかね……?」

「うむ。空飛ぶ円盤ではないが。星間航行用の船にてやってきておる。正確には商業用の貨物船なのだがのう」

「えと、冗談ですよね?」

「冗談ではない。その証拠がおぬしの前髪にもあるではないか」

「え……これ?」


 俺の前髪――正確には右側の部分がピンク色なのだ。そこを指さされている以上。


「って、これが証拠って!?」

「つまり、おぬしの先祖に異星人が居たと言う証であり。その方の弟を先祖にもつ吾輩は遠い縁者となるのだよ」


 マジですか⁉


「で、でも俺の親父もお袋も髪にピンク色のところなんてありませんでしたよ!」


 もちろん爺ちゃんや、婆ちゃんも普通に黒髪だった……はずである。


「おそらくは隔世遺伝と言うやつなのだろう。それでおぬしには異星人がこの星の住人に化けているのが分かってしまうのだよ」

「じゃ、じゃあ、あなたも、もしかして……」

「うむ。普通の地球人であれば同じ種族だと認識できる程度には化けているはずだ」


 マジか、マジなのか⁉

 表情は全く分からんが嘘を言っているようには聞こえないし。そもそも、俺に嘘を吹き込むメリットがない。

 なにせ盗ってく物なんて何にもないからな!


「それから、いいかげん丁寧な言い回しを無理にしようとするな。いくら他人に等しい縁者とはいえ縁者は縁者。平等な付き合いを吾輩は求める」

「や、でも、なんか年上っぽいですし」


 金がかかってんだから当然だろ!


「では、こうしよう。吾輩の頼みを聞いてくれたらおぬしの取り分を上乗せすると約束しようではないか」

「あざっす! よろしくな! ジン!」


 右手を差し出すと大きな手袋が俺を包んでいるように見えるが……感触は普通の人と握手している感覚に近かった。


「では、話を続けるとしよう。先ずさらわれたと思われる女児達なのだが今のところ、コレと言った手掛かりは一切ないそうなのだ」

「探すって、誘拐事件なのかよ!」

「うむ。普通の誘拐事件なら、この国の警察とやらが働くべきなのだろうが、今回は異星人が絡んでいるようでな」

「や、だからって俺にどうしろと?」

「おぬしには地球人に化けた異星人を見抜く目があるではないか」

「あ……でも、それって、本当なんだよな?」

「あぁ、明日になれば吾輩の言っている意味が良く分かるはずだ」

「そうなのか?」

「明日から潜入調査とやらをする予定なのでな」


 なるほど、確かにこんな変な格好したヤツが普通に社会に溶け込んだとしたら俺の目が特別だって認めるしかないだろう。


「それはそれとして、すまぬがなにか食わせてはもらえんかのう?」

「カップ麺で良けりゃあるけど」

「ふむ。ではそれを頂くとしよう」


 ――準備してお湯を入れて3分。


 ふたを開ければ、カツオのダシと醤油、そしてなによりも蕎麦の香りが鼻腔をくすぐる。


 ごくり……


 出来る事なら、俺ももう一杯といきたいところなのだが、我慢。

 いくら特売で安く買ったとはいえ数に限りがある以上無闇に食べてしまうわけにはいかない。

 それはそれとして絵ずら的には違和感しかないが、きちんと箸を使って食べようとしている。

 金色の歯の部分がカパッと上下に開くと中から人の口らしきものが見えた。

 中身があるってことは地球人に化けてるってのも本当なのかもしれない。


「熱いから、火傷しないようにな」

「うむ、安心せい。少なからず情報は得ておる」


 きちんとふーふーしてからずずずっとそばをすする。


「美味い! 話には聞いていたがこれほどの物とは思わなんだ!」


 驚くくらい歓喜の声を上げている。


「美味いのは認めるが、それほどか?」

「あぁ。吾輩が貨物船で来た理由の一つが、この蕎麦という物の買い付けだからなのだ」

「え、なにジンって商人なの?」

「正確には仲介役に近いが、それにしても美味い! これならいくらでも食べれそうだ」

「確かに、蕎麦だったら、俺もいくらでも食える気がするけどさ」

「気づいておらなんだか、それは気のせいではないぞ」

「は? なんだそりゃ?」

「吾輩達にとってこの蕎麦という食物は完璧に等しい万能食なのだ」

「そうなのか」

「おそらくは、おぬしもこの蕎麦だけを食べておれば何の問題もなく生きて行けるはずだ」

「マジか⁉」


 言われてみれば……けっこう前から蕎麦しか食ってないけど体調不良とか起きたこともない。


「さらに言うなら、この食物に関して吾輩達は食いだめができる。ゆえに交易したいと強く考えておるのだ」

「だったら、すればいいんじゃないのか?」


 一斗缶みたいな頭が左右に振れる。


「残念ながら、この星はまだ異星との交易を始めてはいない。そこで恩を売ってきっかけを作ろうと言うのが今回の作戦なのだ」

「なるほどなぁ」


 言いたいことは、なんとなくわかった気がするが他にもやりようがあるような気がする。

 まぁ、俺の頭なんかじゃ思いつかねぇけどさ。


 最後の汁まで、ずずずっと飲み込むとジンは「いや~。本当に美味かった」といって器をテーブルの上に置く。

 すると、開いていた金色の口の部分が音もなく閉まった。


「これからしばらく同じものが食べられると思うと実に楽しみだ」

「まぁ、それはそれとして。誘拐事件の方はどうすんだよ?」

「いずれにしろ明日になってからだ」

「なんか、誘拐事件ってわりには焦ったりとかしてる気がしねぇんだけど。本当にそんな事件あったのか?」

「うむ。先ほども言ったがこの件に異星人が関わっている可能性が高い以上――今すぐにどうこうなる可能性は低いのだ」

「なんでだよ」

「さらわれた女児の行方は分からずとも星間航行可能な船の出入りは監視しておる。ゆえにそれらの船が確認されるまでは女児はどこかに監禁されていると考えてよいのだ」

「はぁ、異星人が地球の女の子になんの用があるってんだよ?」

「食べるためだ」

「はぁ⁉ 食べるって人間をか⁉」

「うむ。我々異星人にも絶対的な法律みたいなあってだな。それは弱肉強食こそが唯一無二の真理となっておるのだよ」

「ちょっと待って! つまり、女の子は食べるためにさらわれたってことか!?」

「残念ながら、そうなる。ゆえに阻止しようとも考えておる」

「いやいや、だったら今すぐにでも動いた方がいいんじゃねぇのか!?」

「どこに居るのか警察でも見当がつかない場所に監禁されているとしてもか?」

「あ……いや……」

「闇雲に探すよりは、ある程度絞って探すほか手はあるまい」

「ある程度って、あてはあるのかよ?」

「依頼主は不機嫌になったが、吾輩は今回の件。地球人の――それも権力者が絡んでおると考えている」

「マジか!?」

「だからこそ、この街で最も安全だと言われる南守学園内のどこかに監禁されていると考えておるのだよ」

「や、さすがにそれはないと思うぞ」


 なにせ南守学園に入るには個人を識別するカードキーがないと入れないし。

 客人等も同様で許可なく入る事は出来ない。

 監視カメラだってあっちこっちにある。そんな場所にどうやって隠すと言うのだろうか?


「まぁ、いずれにせよ。明日もう一度、依頼主に会ってからが作戦開始となる。期待しておるぞ」

「あぁ、出来る限りはやってみるが……それはそれとして、この部屋には風呂もなければ客人用の布団もないぞ」

「気にするでない、吾輩はどこでも寝れるように訓練をつんでおる。風呂とやらにも興味はあるが、人前でこのスーツを脱ぐわけにもいかんのでな」



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