120分、君と私と。―第7スクリーンで待ってる―
キコリ
第1話
携帯がブルブルと震えたタイミングで、私は携帯を取った。
時刻、午前9時30分。アイツと集合する時間まで、あと30分。
TO.安西羽美
FROM.川野勇平
本日はよろしく!
念の為の確認だけど、10時にショッピングセンターの正面入り口で。
イエエエエエエエーーーーーーイ!!!!
―――あぁ、アイツらしいメッセージだな。
そう思いながら、私は文字入力を出して、スライドして文字を打っていく。
FROM.川野勇平
TO.安西羽美
うん、よろしくっす。
これから家出るd( ̄  ̄)
私は身支度を済ませて家を出た。
・・・
「あ、安西!」
アイツ・・・川野勇平と話したのは、つい一か月程前の事だ。
高校に入学して半年。
知り合いのいない学校に進学した私は、クラスで孤独を極めていた。
アイツとも、何か関係があるわけじゃなかった。ただ同じクラスで、ただ登下校の方向が同じだというだけ。いつも帰る時間がカブっていたけれど、お互いがお互いのことを黙認するだけで、話したことは一切なかった。
そんなアイツが突然、私に話しかけてきたのだ。
「川野、だよね。どうした?」
私の返事に、川野は少しビックリしていた。
自分の名前が私に知られていなかったと思ったのか、それとも私と初めて話したからなのか…それは分からない。
川野は言いにくそうに下を向き、やがて思い切ったように私の方を向いた。
「突然なんだけどさ…今度、一緒に映画観に行かない?」
「は?…映画??」
私は思わず川野を凝視してしまった。川野は顔の前で思い切り手を振る。
「あっいや…嫌だったらいいんだ!その…帰り道、大体帰る時間帯同じだし…家も微妙に近いと思うから、仲良くなりたいな、と…」
そう言うと、川野は「嫌だったらいいんだ。」ともう一度付け加えた。
考えてみれば、結構前に学校で配られた連絡網で見たら、住んでいる地区はすぐ隣だった。それに、話さなかったり遊ばないのは、何か申し訳ないような気もしてきた。
「あ、じゃあ…いいよ。どっか空いてる日、教えて。」
「マジで!?ありがとう!」
川野は、パッと明るい表情を見せた。そして、なぜかキッチリ90度の礼をしてきた…同級生なのに、変なヤツだ。
私達は、その場で日にちと集合時間を決め、連絡先を交換した。
・・・
【川野勇平は、生粋の映画オタクである。】
この事が噂に出始めたのは、入学早々クラス中で話題になった。
川野は、クラスの中でかなり個性の強いタイプだった。
入学して3日後にはクラスメイトとワイワイ話し始めている人だった。
初めのうちは、かなり協調的なんだな…と思っていたのだが、川野には一人で突発的に行動する力もあった。一人で教室を飛び出し、校長先生のカツラ説を検証しに行き、担任の先生にこっぴどく怒られた、という武勇伝を作り出した。
また、彼は映画の話題になるととてつもなく饒舌に語る人間だった。
映画俳優や女優はもちろん、監督・助監督・メイクアップアーティスト・脚本・構成担当の人までも把握しているみたいだった。川野の周りにいた友人が、川野に向けて「映画クイズ」と称したゲームをやっていたが、その時も川野は動じることなく淡々と答えていた。私はそれを遠くの方で見ていただけだったけれど。
私は川野と真逆の性格をしている。
普通の生活に満足していて、目立たない生活を好む人間だ。
ただ、川野が話しかけてきたあの時、「自分と全く違う性格の人間と話しているのは奇跡かもしれない」と思ってしまった。
だから、映画を観に行く約束もできたのかもしれない。
・・・
私の家の近くにはショッピングモールがあり、その中に映画館がある。
家からは徒歩圏内ですぐなので、集合場所に着いたのは10分前だった…なのにも関わらず、川野は、そこにいるのが当たり前だというような様子で待っていた。
「早くない?いつからここにいたの??」
開口一番にそう言うと、川野は「おっす、安西!」と、まるで兵隊のように敬礼をしてきた。急にそんなテンションだと、もはや怖い。
「着いたのは1時間前だよ。」
川野は平然とそう言った。
「え?なんでそんなに早いの?」
私は時計を確認した。時刻はまだ10時にもなっていない。
「まず、映画鑑賞前に時間を取って本屋に行ったんだ。そこで今回見る映画の原作小説や漫画を買うことで、その映画を見る事に対しての興味や関心が沸く効果があるんだよ。その後すぐ、トイレに行ったよ。映画鑑賞の直前にトイレへ行く人がいるけれど、敢えてその時間を削減することで、長く映画館の中にいられる。さらにその後、見る映画のチケットの購入とグッズの確認を済ませる……そういう訳で、映画を見る準備はかなり時間がかかるので、僕は絶対に1時間前には鑑賞場所にいるって決めているんだ!!!」
私は驚いて川野を見た。
あのバカそうで、素っ頓狂な川野が………ま、真面目に語ってるぅぅううううううううう!!!!!
「さぁ、安西。もうお前の分のチケットは買ってあるから、あとは映画館の中に入るだけだぜ。行こう!」
川野は話し方を変えずにそう言うと、私の前をズンズン歩き始めた。
やっぱり川野は、生粋の映画オタクだった。
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