第五章 家族の形 7

 水尾の鋭い視線を気にすることもなく、久我山信明は淡々と話し続けた。計画の準備段階から、どのようにして殺害したのか。それらを、全く感情を表に出さず、まるで他人事のように理路整然と語った。全てを話し終わった後、水尾の目を見て少し笑って見せた。


「水尾さんは僕の言ったことに納得していないといった表情ですね」


 信明が話した内容に特におかしな点は無い。

 

 しかし、水尾は信明が言ったように全てに納得したわけでは当然無かった。それは、及川守が残した告白文が原因だった。その告白文には、今、信明が言ったことがほとんどそのままの内容で書かれていた。やったのが信明でなく及川守だという違いを除いて。


「守君は自分が全てやったと言うでしょうね。でもそれは事実では無い。やったのは僕です。守君は計画を立てただけ。水尾さん。あなたが何を信じようが勝手だが、事実は僕が言ったことが全てです」そう言って再び微笑んだ。


 水尾は歯ぎしりをした。信明が言っていることはもっともだ。出てきた証拠と信明の供述から、信明が犯人ということを覆す要素は無い。自分がどう思おうが捜査方針を覆すのは難しい。及川守の証言を得られない今の状況では、信明の証言が最優先されるのは火を見るより明らかだ。


「僕の話すことはこれが全てです。聞きたい事があるなら何でも聞いて下さい。僕にはいくらでも時間がありますから」


 水尾は言いたいことならいくらでもあったが、その内容は捜査とは関係の無いことばかりだった。この事件に関して自分にできることはこれ以上無いことは自覚していた。


「本当にご迷惑をお掛けしました。自分がやったことは時間を掛けても償いたいと思います。水尾さん、お身体をお大事に。僕から見てもあなたは働き過ぎに見えますよ。それとあの東京の刑事さんに感謝を伝えておいてくれませんか。彼の守君に対する行動に、本当に心をうたれました。ほとんど見ず知らずとも言っていい人間に対してあそこまで賢明になれる。人間も捨てた物じゃ無いなと気付かされました。僕も罪を償ったら彼のように生きてみたい」


 そう言って微笑んだ信明の表情は夢見る少年のようだった。

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