第7話 キャンプ場の悪意(1)遠足準備
遠足。萌葱とっては面倒臭い以外の何ものでもない行事だが、休むのも許されない。というのも、担任に釘を刺されたのだ。
「休んだら協調性の欠如と判断し、保護者面談もするし、内申書にも記入する」
と。
なので、参加は仕方がない。ハイキングの後、川で魚を釣り、バーベキューをするというものだ。
班は男女4人ずつの8人組を任意に作るのだが、大抵は数人ずつのグループが出来上がっているので、それをパズルのように組み合わせて8人にする。
萌葱は1人なので、楽なものだ。1人足りないという班に加わる事になる。
そうしてできた萌葱の班で、買い出しに出ていた。
「コンロと炭と網と釣りの道具はあるんでしょ」
「食材だけでも、8人分は重いわね」
「勿論俺達男子が持つよ」
にっこりとして
「当然だ。うん」
慌てて追随するのは、
「皆で分けて持った方がいいんじゃない?協力しないといけないんだから」
「そうそう。男女平等。ね、いいわよね、望月君、今川君」
「ちっ」
よそを向いたのは、
「いいよ」
萌葱は短く答えた。
女子4人に男子2人がくっついて、足りない2人分を、ひとりの萌葱と今川が入って埋めたというメンバー構成だ。
食材を買いにスーパーへ一緒に出掛けた帰りだが、萌葱の家の前を通る羽目になっていたのだった。
が、ふと通りかかったマンションの1階に出ている看板を見て、小鳥遊が声を上げた。
「望月法律事務所かあ」
それに、ほかの皆も目を向ける。
「望月君と一緒だね」
「望月君って頭いいし、弁護士とかでもなれそう」
城崎と須本が笑って言い、今川が舌打ちをし、輪島が顔を歪めた。
「ふうん。1階に店があるマンションは多いけど、パン屋さんと法律事務所ってのは珍しくない?」
香川が言い、全員が足を止めてしげしげと眺め出した。
1階にパン屋と法律事務所。
パン屋は米原夫妻が脱サラをして始めたパン屋で、近所でも人気がある。
そして法律事務所は、蘇芳がなるべく家の近くでと考え、ここに構えたのだ。この若さで独立するのは、優秀なだけではなく、自分のマンションを利用できるというのも大きい。蘇芳が独立すると言ったら、先輩の弁護士も人間関係のわずらわしさから出たいと言い、その
2階は賃貸マンションで、4部屋。
そして3階はひと続きにして、望月家が住んでいる。
「行こう」
萌葱は家がバレたら面倒臭い気がしたので、そうさり気なく声をかけた。望月という名は、そこまで珍しい名前でもない。
だが、不意にドアが開き、島津が顔を出して萌葱に気付いた。
「あ、萌葱君!今帰って来たの?今日は先生、もう上に帰ってますよ」
全員が萌葱に注目し、萌葱は内心で溜め息をついた。
「どういう事?」
香川が訊く。仕方がない。
「ここ、うちの兄の事務所。で、うちはここなんだ」
「どこ?何号室?」
小鳥遊がわくわくしたように訊く。
「3階」
「3階のどこよ」
香川が言うのに、嫌々答えた。
「うちがここのオーナーで、うちは3階全部」
今川が舌打ちをした。
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