眠れない僕の最高の枕は拾った巨乳アイドルでした
佐波彗
プロローグ
この日も宝耀さんは、夜になると僕の部屋へ来ていた。
いや、僕の方から頼んで、来てもらっていた。
僕は、駆け出しのアイドルである『
そんな担当アイドルとは、アパートの部屋が隣同士だった。
本来はよくないことなのだけれど、これには事情がある。
「きょーしろさん、今日も『枕』しに来ましたよ!」
来て早々、宝耀さんが言う。
「誤解を招く言い方やめてくれない?」
「だって事実じゃないですかぁー。なにを隠すことがあるんですか」
ピンク色の長い髪をした宝耀さんは、まったく躊躇うことなく、僕の部屋の端にあるベッドに飛び込んだ。すでにパジャマ姿だ。身長も高ければ胸も大きくお尻も張っているので、生地の薄いパジャマ姿だと目のやり場所にとても困る。
「『枕』って響きがなんか卑猥だからだよ」
「なんかきょーしろさん、卑猥じゃないみたいなこと言いたいみたいですけど、卑猥ですからね?」
宝耀さんは、露骨に驚愕した顔のままベッドを飛び跳ねる。
「わたしのおっぱいにあんなことをするんですから!」
胸元を隠すように腕をクロスさせた宝耀さんは、ぽてりと横向きに倒れ込む。
「あんな……あんな……」
次第に頬が赤く染まっていき、声音には切なさそうな響きがあった。
「ちょっ、やめてよね、変な意味を付けようとしないでよ……」
ますます無実が遠ざかっていくよ。
「他意なんかないんだよ。だって僕にとって宝耀さんの胸は、眠るための道具以外の何物でも――」
「ナニコラァ!」
突如突き出した宝耀さんの頭が僕の顎先をかすめる。とっさに回避できたからいいものの……危ないなぁ。
「今のは問題発言ですヨ! わたしのおっぱいは道具なんかじゃありません! おっぱいは……おっぱいです! 見て吸って揉んで楽しむものです!」
それはそれで問題発言なのでは?
「……じゃあ、『枕』にするより吸って揉んで楽しんだ方がいいって言うの?」
別に僕は本当に女性の胸を道具と思っているわけじゃなくて、宝耀さんのことを考えて、変な意味がついてしまわないように言ったつもりだった。
「だ、だめです……」
また胸を両腕で隠して背中を向けてしまった。
「しかし、きょーしろさんがどーしても、ホントにどーしても望むのであれば、やぶさかではありま――」
「ごめん、そういうことなら遠慮しておくね」
「否定の返事が前のめりすぎてわたしが一方的に拒否られたみたいになってるじゃないですか~」
うつ伏せになった宝耀さんは、両足をバタつかせてうんうん唸る。
「女の子の方からエロお誘いをして拒否される、これほど悲しいことはないですよ」
「うん、そうだね悲しいね。じゃあ僕もう寝るから」
「おっと。どうしてわたしのおっぱいに顔面を押しつけようとしたのですかな?」
宝耀さんの胸に顔面を着地させようとするのだが、両手でキャッチするように顔を挟み込まれてしまう。
「寝るからだよ。知ってるでしょ?」
「きょーしろさんったらひどいんだ。寝るためだけにわたしをここにデリさせて」
「デリって言い方よ。……だって、それ以外のために宝耀さんを呼んだんじゃ、本当に問題になるよ」
「むしろ問題にしちゃいましょうヨ! 炎上で知名度激アップですよ!」
「その前にクビになるからさぁ。僕も宝耀さんも。まだ田舎帰りたくないでしょ?」
「ぐぬぬ……それは」
「僕だって、宝耀さんを手放したくないしね。うちの事務所のスターになってもらわなきゃ」
「スターですか、そうですね、わたしは世界中にファンを増やしたいですからねぇ」
「よし、その調子。笑顔がゲスだよ。やる気になってきた証拠だ」
「きょーしろさんはなんてトコでわたしのやる気を確認してるんですか!」
ぷんすかし始める宝耀さんが両手を振り上げたことで、胸元が完全に無防備になった。
僕はすかさずその胸元に顔面を押し付ける。
――スヤァ。
「あっ! きょーしろさんったらまだ話は終わってないんですよ、どうして寝ちゃうんですか!」
宝耀さんが何を言おうが、眠りの世界に入った僕にはもはや関係のないことである。
とはいえ、僕が健康な体で仕事を続けられているのは、宝耀さんのおかげだ。
あの日、宝耀さんに偶然出会っていなかったら、僕は近いうちに体をぶっ壊していた。
もしかしたらそれがわかっているからこそ、不満そうにしながらも宝耀さんは僕を起こそうとしないのかもしれない。
さて、ここだけ読むと、所属アイドルのおっぱいに顔面を押し付けたいだけの変態野郎に思えてしまうかもしれない。
どうして新人アイドルのおっぱいに顔面を押し付けたがっているのか理解してもらうには、少し過去に戻らなければなるまい。このままじゃ僕は単なる狂人だ。僕は平々凡々を地で行く、ごく普通のサラリーマンなのだから。
うーん、どこから話したものか。
とりあえず、宝耀海奈と出会ったところから始めるのが一番いいのかな。
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