第4話 250回目の……④

 いつからだろう、お姉ちゃんを好きになったのは。


 気づいた時からお姉ちゃんを見ると胸がドキドキ言ってて、キューと苦しくなった。

 これが恋だって気づいた時、私はこの恋に対して嬉しさより怖さの方が大きかった。

 だって、相手は実の姉で女の子同士だよ……。昔から世間も物語の中でも女の子が好きになるのは男の子。それも転校生とか幼馴染とかの赤の他人。

 こんなこと誰にも言えない、こんな想いはすぐに捨てるべきと思い、お姉ちゃんの膝の上で震えてるのがバレないように気持ちを抑えた。

 その日の夜は怖くて寝れなかった。

 抑えることはできる……多分。でも、もしこの気持ちがバレたらお姉ちゃんになんて思われるか、気持ち悪いって思われるのではないか……。

 断られるならまだ大丈夫。拒絶だけは嫌だった。二度と会えない、たった一人の姉を失うのはなによりもよりも怖かった。

 そして、この恋は間違っているんだと自分の気持ちを理性で封じ込めた。


 次の日から私とお姉ちゃんの生活が少しだけ変化した。

 今までは着替える時に何も考えずにリビングで着替えていたが、自分の部屋で着替えるようになった。お姉ちゃんもリビングで着替えるが、その時は目を逸らすようになった。そして、お風呂は2人で一緒に入っていたが、別々に入るようになった。

 お姉ちゃんの裸を見たら理性が吹っ飛んで襲うだろう……そんなことが起きたら私はもうお姉ちゃんをお姉ちゃんと一生呼べなくなるだろう。

 お姉ちゃんからは「えー部屋まで行って着替えるのめんどくさくないー?」とか「ガスとかもったいなら一緒に入ろうよー」と言われたが「私……もう大人になったから」と嘘をついて別々にしてもらった。


 この時から私の心の中はずっと曇り空だった。

 ずっと枷をかけて生活をしてるような気分だった。

 物事は上手くいかず、成績は徐々に下落し、笑顔が減ったねと友達には言われた。体育では顔面にボールをぶつけたこともあった。

 流石に顔面にボールは痛かったな……。

 でも、ある日転機が訪れた。


 授業で「一人の人間の遺伝子は両親から半分ずつ引き継ぎます」って教えてくれた。

 私は驚いた。だって、私もお姉ちゃんもお父さんとお母さんの遺伝子が混ざり合ってできたんだよ? 当たり前の事ではあるが、初めて聞いた私は天地を揺らすような衝撃のことだった。そして、私はあることを思った。


 お姉ちゃんを好きになるのは仕方がないことではないかと。


 お父さんがお母さんを好きになったように、お母さんがお父さんを好きになったように。私の中のお父さんがお姉ちゃんの中のお母さんを、私の中のお母さんがお姉ちゃんの中のお父さんを大好きになって、愛し合いたいって、情を交わしたいなっていくのは至極当然のことなんじゃないかなって。女の子同士だって、半分男、半分女で作られた体なんだから半分男、半分女で作られているお姉ちゃんにそれぞれが恋をしてしまうのは、もうどうにもならないことだってことを。

 話が飛躍してる? そんなこと知ったこっちゃない。これが私が見つけ、曇り空に刺したに光なんだから。

 私の中の理性は光ではじけ飛び、想いが、欲望が溢れた。

 お父さんがお母さんを何度も告白したように、下手くそだろうがセンスがなかろうが、弾数を打てば当たるって言ってたように私も諦めなければできる!

 その時から私は恋する乙女になったのだ────。



──── * ──── * ────



 時刻は午後六時、日の入りが始まったころだ。

 お姉ちゃんに引っ張られ、私はショッピングセンターから約15分、スタジアム近くの小さな公園に来ていた。


「ここは────」


「うん、懐かしいでしょー」


「なんで、ここにきたの?」


「はじめて、秋ちゃんに告白された場所だから」


「────っ!」


 お姉ちゃんの言葉に息を飲んだ。

 覚えてて……くれたんだ。

 転機の日、学校が終わった後すぐ、お姉ちゃんの高校まで走り、お姉ちゃんを連れて告白したこと……。


「お姉ちゃん……」


「んー?」


「好き……」


 私はお姉ちゃんが覚えていてくれたことの嬉しさで、涙を流していた。

 震えた声で私はお姉ちゃんに今も変わらない想いをぶつけた。


「私はお姉ちゃんが好き! エッチがしたいし、もっとデートがしたい!」


「この恋は間違ってない、この恋は私にとって当然のことだから! だから……私と付き合ってください────」


 250回目の告白。

 日は更に沈み、少し肌寒さを感じながら私は1回目に負けず劣らない告白をした。

 私の想いをいつも以上に真剣に、優しく聞いてくれたお姉ちゃんは答えを聞かせてくれた。


「ごめんなさい。秋ちゃんが私のことをどのくらい好きなのか、どれだけ本気なのかは知ってるよー姉妹だもん」


「……最近ね、私も秋ちゃんのことが好きなんじゃないかって思ってた。でも、間違ってたら秋ちゃんに失礼だと思って、それを確かめるために今日デートしてもらった。でも私の中では、私はお姉ちゃんで秋ちゃんは妹なんだー」


 私も知ってた。

 射止めるハートの的が小さいことを。お姉ちゃんが私を女ではなく妹としてしか見てないことを。15年一緒にいるんだ。顔や態度を見れば大抵のことは分かる。

 分かってても諦めなかったけど……でも、言われるのは……やっぱり辛いよ。


「うん、知ってた、よ……でも────」


「「諦めないから」」


 1回目の告白と同じように私はお姉ちゃんに宣言した。

 ……なんか、私と初めて告白した私の声が重なった気がした。


「上等だー」


 お姉ちゃんもまた、私の宣言を受け止めてくれた。

 そして────。


「秋ちゃん、これー」


 お姉ちゃんが渡してきたのは先ほど撮ったプリクラの写真とラッピングされた何かだった。


「これは?」


「思い出とお祝いー」


「お祝い……? 開けてもいい?」


「いいよー」


 中に入っていたのはオレンジのシンプルなデザインのヘアピンだった。


「ちょっとじっとしててねー」


 するとヘアピンを私の髪に付けてくれた。そして、お姉ちゃんのポケットから付けてくれたと同じデザインのピンクカラーで出来ているヘアピンを取り出し、自身の髪に付けた。


「お姉ちゃんとお揃いー」


 にっこり笑うお姉ちゃんは何よりも可愛らしく、私の心臓の鼓動はものすごい音を出していた。


「秋ちゃん、高校合格おめでとー。春からもよろしくねー」


「うん!」


 今日の思い出のプリクラとお祝いのヘアピンは私にとって恋路を表す宝物だ。

 これは傍からみたら、異物かもしれない。

 でも、その異物を将来、いつか正しい物にすれば私の勝ちである。

 大丈夫。この勝負は、恋は、私の勝ちである!

 ……勝ったぜ!

 妹を好きになるのも当然だよね────?


 お姉ちゃんを好きになるのは当然なのだから!

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お姉ちゃんを好きになるのは当然だと思うよ! 水原里予 @mizuhara0909

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