ギルドへ報告に行ったんですが

 無事に街へと辿りついた僕たちは、そのままギルドへと報告に行った。

 きっと教会から情報は入っているのだろうけど、それでも直接話したほうが良いと思ったからだ。

 ギルドの扉を開けると、そこには心配そうなみんなの姿があった。

 みんな僕たちの姿を見つけて、わっと一斉に走ってくる。


「無事だったのか!?」

「なにかヘンなことはされてない!?」

「ケガは、ケガはなかったか!?」

「報告はこっちでしてあげるから、今日は休んでな!」


 四方八方、あちらこちらからみんなが僕に声をかける。

 その内容はどれもこれも真剣なものなのだけれど、みんながあまりに必死なものだから少しおかしくなってしまって、僕はくすくすと笑った。

 とはいっても、おかしいだけで笑ったわけじゃない。

 みんなが僕のことを心配してくれて、なんだか嬉しかったのだ。


「……ショウ」


 ギルドのみんながさっと避けて、声の主があらわになる。

 いつもと同じように表情の分かりづらい仮面をつけた、マキナさんだった。


「……すまなかった」


 そして彼は、僕に向かって大きく頭を下げた。


「枢機卿猊下のうわさを知っていながら、強く引き留めることをしなかった。……すべて私の責任だ」

「そんな……」


 そんなこと、なんの問題もない。

 朝焼けの騎士団の人はみんな、マキナさんが僕たちに依頼を受けさせるために頑張っていることを知っている。

 たとえば冒険初心者のための研修。

 これを最初にはじめたのはここだ。

 僕が入るよりも前、はじめて入る冒険者たちが死んでしまうことのないようにはじめて、他のギルドにも広めてくれたのがマキナさんなのだ。

 だからありがたく思うことはあっても、責めるようなことはない。


「……マキナさん、顔を上げてください」


 でもきっと、この人はそれでは納得してくれないのだろう。

 だから僕が言うべき言葉は、そんなものではなく、きっと――


「――僕はこうやって無事に帰ってこられました」

「うん」

「……けれど、途中あぶないところがあったのも事実です」

「……うん」

「……だから」


 ジョシュアくんを、僕たちの家に住まわせてもらえませんか?

 その言葉を聞いたマキナさんが、反射的に顔を上げた。


「……それだけでいいの?」

「それだけじゃないでしょう? 人を住まわせるだなんて大変なことです。しかもダークエルフ、色々と苦労することもあるでしょう」


 だからこれでおあいこです。

 そう言ってマキナさんに笑いかけると、彼は観念したようにため息をついて、それから乾いた笑い声をあげた。


「そうだね、君はそういう子だったね……」


 ひとしきり笑うと、彼は僕の目をじっと見つめた。

 仮面の奥にある瞳の色はわからない。

 けどきっと、とてもやさしい色なんだろう。

 そう僕は思った。


「……わかった。君たちとジョシュアくんが同居することを許そう」

「ありがとうございます」

「ううん、これくらいなんてことないさ。……さ、もう夜も遅い。教会のほうから報告は受けているから、君たちは帰るといい」


 それじゃあ気をつけて。

 そうやって手を振るマキナさんにお辞儀をして、僕たちは家路へとつくのだった。

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