幼馴染と再会したんですが

「……ミシェ?」


 扉の前にいたのは、見間違えもしない、むかし一緒の孤児院で暮らしていた、ミシェルだった。

 ほんの小さなつぶやきだったけど、彼の耳にはしっかりと届いたらしい。

 彼は満面の笑みになると、抱き着くようにこちらへと駆け寄った――ように見えた。


「ショウくん久しぶり!」


 僕の見立ては当たっていたようで、急にやってくる身体の重みをうまくいなしながら、飛び込んでくる彼を抱きとめる。

 腰の辺りまで伸ばした金髪をポニーテールにした彼は、顔をスリスリと擦り付けながら喜んでいる。

 孤児院のころから甘えたがりだったから、この癖も懐かしいものだ。


「ミシェ、教会にいってたんだね」

「うん! ショウくんが冒険者になったって聞いたときはびっくりしたけど……こうやって、また会えてよかった」

「うん……僕も」


 あの時はとても心配したんだよ、と丸い碧眼を潤ませながら見上げてくる。

 僕が孤児院を出てそれなりの時間が経っていたのだけど、彼は小さいままみたいだ。

 ――ふと、彼の服装に違和感を感じた。


「……そういえば」

「なに?」

「その服って」

「! ああ!」


 ミシェは僕から離れると、まるでダンスを踊るみたいにその場でくるりと一周した。

 身体の動きに合わせて、ふわりとロングスカートが舞う。

 ――やっぱり。


「……それ、女の子のなんじゃ……」

「うん! そう!」

「あれ、じゃあミシェって……」

「ううん」

「え」

「ちゃんと男だよ、確かめてみる?」

「い、いや、いい……」


 ――そう、久しぶりに会った幼馴染はシスターの格好をしていた。

 男モノのシスター服というのは聞いたことがないから、たぶん女装ということになるのだろう。

 もともと女の子みたいな顔つきの子だったから、女装している姿に違和感はない。

 そのうえ恥じらいのようなものも見当たらないから、なにも知らないで出会うと女の子だと勘違いしてしまいそうだ。

 だけど彼は自分で宣言した通り、男の子なのである。


「なんで女の子の格好をしているの?」


 もしかしたら、彼の入った教会ではそういったしきたりがあるのかもしれない。

 そう思って質問してみたのだけど……。


「え、かわいいからだよ?」


 ――あまりにも身も蓋もない答えに、僕は撃沈した。

 確かに、彼は昔からかわいいものが好きだった。

 かわいいんだから女の子の格好でもいいじゃないですかとか、そういうことを言う子だった……!


「コホン。ショウくんと……ミシェルくん」


 仕切りなおすように発せられたマキナさんの咳払いで、僕は現実世界へと戻ってきた。

 そうだ。今はそんなことを考えている時間じゃない。


「もう知っているみたいだけど改めて紹介するね。彼が教会から派遣された君の監視役、ミシェル・フォッコくんだ」

「またよろしくね、ショウくん」


 マキナさんの言葉を受けて、ミシェが頭を下げる。

 昔会ったことがある貴族の人たちみたいな、上品な下げ方だ。

 この5年間で彼も成長したのだとわかる、とてもきれいなしぐさだった。


「これから、君とミシェルくんには一緒に生活してもらう。できる限り離れないように」

「はい」

「よろしい。それじゃあ新しく用意した住居に案内するね。アンが先導してくれるから、彼女の後ろをついていけば大丈夫だよ」

「わかりました」


 ありがとうございます。

 マキナさんにお辞儀をして、アンさんの後ろへとついていく。

 執務室を出る瞬間、彼が手を振っている姿が見えた。

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