貴種集めの貴種流離譚 第10話

 貴種を呼びよせ出会ってしまう家系の少年が、一族の仕事として貴種の図鑑を作るために旅に出る話。

 貴種集めの貴種流離譚。

 先祖たちの時代と異なり、全世界の同様の一族たちとの学会も行われているため、彼は、世界では見られない「春夏秋冬」の概念を宿した貴種を、自身の図鑑のテーマとした。


 春の陽気。花咲き乱れる香りと暖かな土の匂いがする、薄紙のような生物。

 捕まえて擦ってみると、果実をつける前の青くさい葉の匂いもする。

 ほぼ透明のため見えないが、敏感な人はその生物が通る匂いに気がつく。

 人に寄る習性があるが、人がおかしくなる「春の陽気」との因果は不明。


 夏の気持ち。抜けるような青空と強い風を感じた時に、背後にいる生物。

 夏の濃い影と、短く暗い夜に潜むもの。

 憑かれると精神に作用し宿主を過剰に行動させるが、夜や去った後ひどい倦怠感に襲われる。

 水が嫌いなようだ。宿主を行動させた結果、海に行かれ、自滅しているのをよく見つける。


 秋の土。足から這い上がる、夏の暑さと残された豊穣の気配。

 根を張る生物のため、その場から動くことはなく、ただふかふかしている。

 腐葉土によく潜むが、コンクリートの道路にもおり、この生物を踏むと尋常ならざる柔らかさを感じる。

 何人もが柔さを忘れられず寝具売場で首を傾げている。


 冬の光。刺すように寒い空気と風の元にいる生物。

 スクリーンのような膜状の姿で、澄んだ空気の元でしか生きられない。

 それを通して見る景色は、絶景にうつる。

 自宅の壁に釘で打ちつけてみると、ただの白壁が雪化粧した富士山頂に見えるほど。

 数多の写真家が取り憑かれている正体か?

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