冬に夏の夢を見るためのASMR 第6話

 夏に冬の夢が見たくて、火鉢の音を聞きながら寝ていた女が、冬に夏の夢を見たくて、夏の音とはなにか考え試した末、花火の音を聞こうと目論む話。


 彼女は、慢性的な寝不足かつ、聴力が過敏な音フェチ。

 おとなしい性格で、音楽が苦痛に感じるほど繊細。

 火鉢の音で一夏快眠できただけに、眠れない寒い冬に快適に寝るため、夏の音探しに必死。

 人の笑い声や喋り声というASMRを入手するときに、おしゃべりなお隣さんと関わり、それ以来なにかと遊ぶ仲。


「つまり火鉢の音じゃ寝られんくなってきたと。それで別の音やんなぁ、目星とかあるん?」

「ない。案ほしいです。」

「せやんな。風の音。」

「葉ずれの音が痒いです。」

「水。」

「水流のテンポが速くて、落ち着かない。」

「夏に冬の火鉢で寝られたなら今冬だから夏の音探したらどや?」

「それです。」


 夏の音(概念)を探すために、彼らは冬空の街に繰り出した。

 風鈴を買い、映画「真夏の方程式」と「スタンドバイミー」を借り、スイカを切って、カルピスと氷を冷蔵庫で冷やした。

 室内プールでマイクをかまえ、雪が降らない低い山に登り、足音に耳を澄ませ、海中に録音機材を浸した。


 全て彼女が安眠するには足らなかった。


 夏の音探しに出歩く疲労もあり、苛立つ女に対し、お隣さんは上機嫌だ。

「これってただ俺らがデートしてるだけやんな?」

「うるさいです。」

 ついに、冬に夏を探し尽くした、もとい遊び尽くした彼女は、真冬の最中に、打ち上げ花火の音を探そうと決意した。

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