21:グローリア、またまた大出世!? 広まる勘違い……

「結局、ハルドン国王の処分はどうするんですか?」


 両国国王会談から一夜が明け、私は騎士団寮の騎士団長の部屋にいる。ハルドンを巨大竜巻で吹っ飛ばして、寮の屋根に大穴を空けたおわびをしに来たのだ。

 たまたま騎士団寮に落ちてしまったからと、賠償を求められることはなかった。団長がめちゃめちゃ心広くてよかった!


「国王陛下と相談して、『国家安全維持法』違反で地下ろう行きにすることになった」

「ボディーガードや他の兵士はどうするんですか?」

「全員、うちの騎士団に入団した」


 ……へ? 全員って!


「処分はしないんですか?」

「戦力となってくれればそれでいい。ただ、ハルドン『元』国王には重い重い懲役を受けてもらうことにした」

「ハルドン『元』国王には、ですね」


 そりゃあそうだよね。無理やり武力で乗っ取ろうとしたんだから。


「そうだ、昨日だけでたくさん負傷者が出たはずですよね? どこにいますか?」


 私はアールテムの騎士たちだけでなく、音波砲で吹っ飛ばしてしまった元トゥムル軍の人たちも気にかけていた。仲間になったならなおさらである。


「一階の大広間をすべて療養用の部屋にしてある。そこにいるぞ」

「ありがとうございます」


 私はサックスのケースを背負って騎士団長の部屋から出ると、少し不安に思いながら大広間を目指した。






 コンコンコン


 とりあえずノックをし、大広間の監視をする騎士に顔パスで通してもらった。

「プレノート家の当主様だ」と騎士の一人がぼそっと言った瞬間、この部屋のみんなが一斉にこちらを向いた。


「うわぁぁぁぁっ!」

「お、俺たちを吹っ飛ばしたあの女だ!」


 ピンクの髪という奇抜な見た目で覚えてくれていたのだろうか、元トゥムルの人だとみられる人たちがおびえきっている。

 力の強い者におびえる……。きっと今までハルドンに、こういう感じでビクビクしてたんだろうなぁ。


「怖がらないでください。みなさんを癒そうとここにきたんですから」

「俺たちをこんな目にさせておいて! 今日は何をするっていうんだ!」

「ケガを治すだけですよ」


 私はケースを下ろし、サックスを組み立ててみんなの方に向き直った。


「おい、昨日と一緒じゃねぇかよ! その金色のやつ、昨日も持っていたやつじゃねぇか!」

「……おい静かにしろ」


 監視の騎士がわめく騎士をにらみつけると、舌打ちをして黙ってくれた。


「ではさっそく」


 目を閉じると、私の心の中に同情の『想い』が沸き上がってくる。だって『死ぬ』くらいの痛みを経験してる私だもん。ケガしてうめいているのには同情しかできないって。

 曲は、いつもあいさつ代わりに演奏している『まどろみのむこうに』を吹くことにした。


 じんと心が動いたところで、演奏を始める。

 学校の音楽室の二倍くらいの大広間に、エコーを利かせながら甘いサックスの音色が響き渡る。


「傷口が……光ってるぞ!」


 緑色の光が点々とつき始め、ついにケガをしている全員が光っていたのだ。

 監視の騎士に目を向けると、彼の膝の辺りも光を帯びていた。


 転んだのかな? まぁまとめてなおしちゃえ!


「すげぇ……」


 感嘆の声をあげる騎士たち。傷が治って光が最後まで消えたのを確認して、一曲吹き切った。


「いつもは宮廷音楽家として交響楽団の方と一緒に演奏したり、ソロでは普通に演奏したり、このように病気やケガを癒したりしてます」


 大広間の端の方から、「あっ!」と大声が聞こえた。


「昨日ここの誰かが言っていた、『珍しい楽器で病気やケガを癒す聖女』ってこの女のことか!?」

「それだ! まさか俺らを吹っ飛ばしたあの女だったのか!」


 元トゥムル軍らしき人たちがわっとどよめく。


「どうやら……私のことをそのように言っていたらしいですね……」


 私は苦笑するしかなかった。


「あの話は本当だったんだな!」

「アールテムにこんなすごいやつがいるのか!」

「国王まで治したっていうなら、そりゃあすげぇやつだ!」


 ガヤガヤとする男たちを前に、サッとサックスを片づけてケースを持った。


「それではこの辺で失礼します」

「名前は何て言うんだ?」


 部屋を出ようとしたところで足止めされる。


「グローリア・プレノートです。一応男爵の身分です」


 前世で鍛えた営業スマイルでにこやかに返すと、私は男臭が漂う大広間をあとにした。


「あの女、貴族だったのか……」






 私はその足で王城に向かった。もはや国王とは仲良しになったので、相手が国王だろうとそこまで緊張はしていない。


「失礼します」

「ほう、来たか」


 今日は『王の広間』ではなく、国王と初めて会った寝室で話をするらしい。

 小さなテーブルを前にして、国王はゆったりソファに座っている。私もその前にあるイスに腰かけた。


「昨日は本当に大儀であった。そなたにはたくさんの報酬をやろう」

「ありがとうございます」

「包囲軍を圧倒し、その命令を出したハルドン元国王を捕らえるために尽力し、騎士団長とともに領土の拡大に貢献した。これほどのことはなかろう」


 国王が羊皮紙とともに提示したのは……


「まず、そなたを男爵から公爵に任命しよう」

「こ、こ、公爵!? ですか!」


 公爵って上から二番目の地位だよね! 一番下だったのに!?

 ちなみに一番上が大公爵のトリスタンなんだけど。あはは。


「そして、そなたを私の宰相に任命する」


 ……えっ、マジで?


「さ、宰相って、国王の補佐的な感じのやつですよね?」

「そうだ。そなたには初めて会って以来、多くのことに助けられた。宰相にしても申し分ないだろう」


 ただ私を貴族にさせてくれた恩返しとして、国王に尽くしていただけなんだけど?


「本来なら大公爵にしてやりたいところだが、今はトリスタンがいるからな。宰相として、これからも精進しなさい」


 うわわわ……なんか、大っ変なことになっちゃった!


「はっ……承知いたしました」


 この国王、ガチで私が国を変えてくれるって思ってるでしょ! 私、ただお金持ちになりたいだけだからね!


 思ってもいなかった報酬内容に、この部屋から退出するときには膝の震えが止まらなかった。

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