【完結】楽器が武器になる世界に転生したJKは癒しの音を奏でたい! ~吹く音で『武器』にも『薬』にも変わる私だけの最強スキルで最強の国を作ります~

水狐舞楽(すいこ まいら)

第一章 現役女子高生、異世界で超能力に目覚める

01:アルトサックス奏者の死は突然に

 今日、私は高校生活をかけた大一番に挑もうとしていた。

 そう、全国大会に。


奏音かなね、絶対金賞取ろうね!」

「もちろん! お互いソロ頑張ろ!」


 私は出雲いずも奏音かなね。吹奏楽部でサックスパートのリーダーだ。ホントは部長になりたかったけど、その場しのぎな考え方のせいでできなかった、いわゆるなりそこないである。


 今話しかけてきたのは、トランペットパートのリーダー。

 中学生の時からの親友で、彼女も今日の日を夢見て練習に励んできた仲間である。


 吹奏楽部人生 六年間の、集大成の日なのだ。


 朝の八時半。昨日から泊まりがけで、ここの全日本大会の会場に来ている。正直眠い。なぜこんなに早く会場入りしなければならなかったのかと言うと……


 私の学校はトップバッターで演奏するからである。

 しかも、審査員は最初に演奏する学校を基準にする(らしい)ので、金賞をとるには不利だとされている。最悪だ。


「……無意識でも勝手に指が動くぐらい、めちゃくちゃ練習したから。大丈夫」


 いつもの制服とは違い、コンクールや定期演奏会の時に着る衣装をまとっているので、気が引き締まる。

 このえんじ色のジャケットに黒いちょうネクタイ、これを着るのも今日で最後か……。


 私は相棒のアルトサックスを持って立ち上がった。






 見つけてしまった。

 おい……マジかよ、こんな忘れ物するか? うちの学校名が書いてあるし、明らかにパーカス(パーカッション)の忘れ物だよね?

 丁字型の金属製の物体。これは確か、ティンパニをチューニングする時に使うやつだったような。


 みんなでまとめて置いてあるバッグの塊から見つけた。パーカス、ちゃんとしてよ……。


「先生、これ、パーカスの方に届けに行ってきます」

「ああ、急いで」


 私の手の中にあるものを見た顧問は、小さくため息をつく。今ごろないないと探しているに違いない。

 首にかけたストラップ(サックスは金属製で重たいので、首でも支えられるようにする道具)から、相棒の楽器をぶら下げたまま、私は早歩きで荷物置き場の部屋を飛び出した。


 楽器を誰かに預ければよかったと後悔するが、もう遅い。

『関係者以外立入禁止』のドアからステージの裏側にまわり、打楽器の群れが見えて私はほっとした。


「忘れ物っ!」

「あぁっ、あった! ありがとうございます!!」


 少し息を切らし、変に早歩きしたせいでふくらはぎが痛みつつも、私は後輩に握らせるように手渡した。まだ開会式まで時間があるようなので、間に合ってよかった。


 ふとステージに目をやると、イスが並べられている最中であった。


「あと三つ持ってきて!」


 スタッフがこちらに走ってくる。私の後ろには身長をゆうに越える高さでイスが積まれていた。積まれている荷台はキャスターつきで、積み上げたものが崩れないよう囲いがついている。いや……上の方は囲いからはみ出ているのだが。


「こいつから取るのか……」


 その人は「脚立、脚立」とどこかへ行ってしまった。


 イス並べの人の他にも、舞台裏では何人もの人がせわしなく往来している。


「さっき行ったばっかなのに……先輩、トイレどこでしたっけ?」


 腕時計をしている後輩が同じパートの先輩に尋ねる。

 緊張してトイレ近いのかな? ふふっ、かわいい。


「そこのドアから出て右に曲がったところにあった気がする」

「ありがとうございます!」


 コンクールの日は別行動になるパーカスの裏側を、少しでも見られただけで笑みがこぼれる私。


「じゃあそろそろ私も戻るね。またあとで〜」

「奏音先輩、本当にありがとうございました!」

「いえいえ〜」


 私は右手を振ると、トイレに行く後輩に続いて歩き出した。

 その時だった。


「あっ」


 スタッフが担いでいた一本の棒が、立てかけてある何枚かの巨大な木の板に触れてしまった。あの大きさからして、ステージのひな壇のものだろう。

 ぐらっと傾き、高く積まれたイスにバキバキッと音を立てて接触する。

 その真横を目の前を歩く後輩が通ろうとしていた!


「逃げてっ!!」


 私は楽器をぶら下げていることも忘れ、脇目も振らずスタートダッシュを決めた。

 巨大板にぶつかったイスの塔は、上の方から順に崩れ落ちてこちらに振りかかっている。


 ああ、このイスの雨の向こう側には行けなさそう。タイミング的に。


 私は後輩の背中を思いっきり押した。自分も通り抜けたかったけど、手をのばして後輩を助けるだけで精一杯。


「きゃぁぁぁああっ!」


 部員の悲鳴が聞こえた瞬間、私の体はイスの雪崩によって地面に打ちつけられた。金属と金属がぶつかるような音もする。私の相棒、ベッコベコになっちゃっただろうなぁ。


 グサッ


 頭に激痛と振動とともに何かがつき刺さった。横目で見ると、あの木の板だった。


「おい、出雲!」

「奏音先輩っ!!」


 部員の泣き叫ぶ声がだんだんと遠くなっていく。床に接している面にじわりと温かいものが広がっている。

 私は察した。ここで死ぬんだと。


「しっかりしてください!」


 ごめんね。この木の板、私に致命傷をらわせたみたい。よりによって頭の後ろ。最悪だ。


 私は目を閉じた。

 走馬灯のBGMは、私が吹くはずだったアルトサックスのソロが飾っている。


 決してうちは裕福じゃなかったけど、何とかお願いしてサックスを買ってもらったんだよね。プロになってお金持ちになって、この分以上に親孝行するから! って。


 音大行って、一人前になりたかったのに……。


 意識は闇の底の底へと落ちていった。

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