第3話 いつものこと

「またアイリ様がレオンハルト様のお隣にお座りになってますわよ」

「まあ、はしたない。何度も婚約者がいる方に近付いてはならないとジュリア様が仰っていらっしゃるのに」

「わたくしは良いのですわ。レオンハルト様とアイリ様はお似合いだと思いますもの。わたくしはアイリ様には貴族としての品位と心構えを身に付けて頂きたいの。レオンハルト様は良い先生ですもの」

「ジュリア、君って女性は⋯⋯レオンハルトも何だってあんな平民なんかを。ジュリアの方が断然美しいじゃないか」

「もうっ! アベルったら! 恥ずかしい事を言わないで」

「本当の事だ。頭も美貌も敵うものはいない。なにより、心が美しい」

「キャア! ジュリア様はアベル様にも愛されておられるのですね」


 ⋯⋯全部聞こえてるっての。しかも何よその茶番は。

 こそこそ話しているつもりだろうけど聞こえてますから。


 私だって好きでレオンハルト様に付き合っているわけではない。

 学園に着くなり私はレオンハルト様に捕まった。

 校門で待ち伏せされていたのだから避けようが無いと思うわ。

 それと、弁解なんてさせて貰えないから言わせているけれど、私が近付いたのではなくて、あっちが近付いて来たの。それに、私が王子であるレオンハルト様の言葉に逆らえる訳がないでしょうに。貴族は身分絶対主義だと貴方達は常日頃言っているじゃない。


 もっと言わせて貰いたい。

 貴方達が言う婚約者云々。じゃあ、ジュリア様は? レオンハルト様の婚約者なのにアベル様に堂々と口説かれているじゃない。

 アベル様には婚約者はいないみたいだけれど、ジュリア様には婚約者がいるのに近付いているじゃないか。それも凄い至近距離で。

 あれですかね、自分は良いけど他人はダメ。

 

 わー⋯⋯最低ー。


 まあ、これ全部心の中でしか言えないけどね。


「あいつら⋯⋯聞こえるように言っているな。アイリ、気にするな」

「はあい。アイリにはレオンハルト様がいてくださるので頑張れますう」


 思っている事と口から出る言葉を反対にする術は今までの生まれ変わりで身に付いている。

 何度も言うけど、私は特別処刑を望んでいるわけではないのだから。貴族様に不敬な物言いはしないようにしている。


「アイリ⋯⋯そうだ、今度の新年祭のパーティー、エスコートは決まっているか?」

「新年祭? アイリは招待されてないですう」


 新年祭のパーティーは上位貴族だけが招待される選民パーティー。有難いことに下位貴族の私は招待されていない。私の断罪は新年祭ではないと安心していたのだけれど。


「僕にエスコートさせてくれないか? エスコートを受ければアイリも参加できる」


 背後の空気がピシリと凍った気がする。

 これはジュリア様の気配が凍ったのだろう。あんなに私をレオンハルト様とくっ付けようとしているのに実際に目にして凍りつくのなら最初から避けたり逃げたりしなければ良いのに。

 どの世界の意地悪な令嬢はなんだかんだ言いながら王子様が好きらしい。

 ジュリア様は意地悪ってほどの意地悪をして来ないが私の事を「ヒロイン」だと言いながらチラチラして来るのはのは嫌味だと思ってる。やっぱり私は捻くれている。


 ああ、でもこれで私の処刑時期が分かった。

 新年祭で私はレオンハルト様にエスコートされ、その場でレオンハルト様とジュリア様との婚約破棄が宣言されるのだろう。

 現に凍りついたジュリア様の隣でアベル様が意地の悪い笑みを浮かべている。

 ううん、違う。私にとっての意地の悪い笑みに見えるだけで、今までの経験上、あれは私のこれまでの行動を窘め、断罪し、意地悪な令嬢を慰めながら手に入れる「真ヒーロー」の表情だわ。


 ああ、今回の私はレオンハルト様を誑かしたと断罪されるのね。



 この世界の私の断罪は一ヶ月後。

 また処刑される事が確定した瞬間だった。

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