第43話 復活者の頼み事は秘密!
廊下に出て、エレベーターホールへと移動した僕らが目にしたのは、鉄柵にもたれるようにしてうずくまる人物の姿だった。
「しかばね……」
泥で汚れた上着のまま項垂れているその人物は、地下の住人――『村長の息子』だった。
「大丈夫ですか?」
僕は『しかばね』に向かってそう呼びかけた。見た目は不審でも人が倒れていることに変わりはない。
「あ……ああ……」
顔を上げた『しかばね』の目を見た瞬間、僕はっとした。最初に見た時と違い、明らかに意思の光が宿っているように見えたのだ。
「村長の息子さんですね?」
今なら呼びかけも通じるかもしれない。恐怖より興味が先立ち、僕は思わず問いかけていた。
「そ……う……」
「一階に来たのは何かをするためですか?……それとも何か僕らに伝えたいことでも?」
僕が矢継ぎ早に問いを放つと、村長の息子は突然「カミヤ……」と言った。
「カミヤ?それは神谷郷先生のことですか?」
「うう……カミヤ、友達……七年前、騙された……」
「七年前……それは三角関係のごたごたに見せかけてあなたと恋敵を『しかばね』にしたということですか?」
「そうだ……やっと二人とも生きている身体に戻れたのに……あいつはまた」
「また、なんです?」
「同じことをしようとしている……早く『工房』に……」
村長の息子は、そこまで語ると力尽きたように再びがくりと項垂れた。
「参ったな。これじゃあ何が起きているのかさっぱりわからない」
「シュンスケ。このままエレベーターでこの人を下に運べないか?」
「運ぶって……地下室へか?」
「そうだ。私は何か武器になりそうなものを探してから行く。下で落ち合おう」
「落ち合ってどうするんだ。それに武器なんか見繕ってどうする気なんだい?」
「外へ行く。『工房』で何かが起きているとこの人が言っていたろう」
「そう言えば……わかった、とりあえず僕はこの人を部屋まで運んでいく。後で会おう」
僕は頷くと、村長の息子をケージの中に引っ張っていった。そのまま地下に行き、どうにか部屋まで運び入れると、エレべーターの動く音が壁越しに聞こえてきた。ホールに出ると、リュックを背負ったジャージ姿の少女が鉄柵を開けて姿を現した。
「ミドリ……そのリュックの中味はなんだい」
「使うことになったら説明する。……行こう。通路の奥のドアを開けるとマダムの家だ」
ミドリはきびきびとした口調とは裏腹に、右に左に身体を傾がせながら歩きはじめた。
――やれやれ、これじゃリュックに背負われてるみたいだ。
僕は一足先に突き当りのドアまで辿りつくと、取っ手を引いた。開いたドアの向こうに現れたのは、貯蔵庫と思しき狭い空間だった。
「……ふう、そこの階段が一階のキッチンに繋がっている。登っていって天井を押すのだ」
いつの間に追いついたのか、背後からあらわれたミドリが奥の階段を指さして言った。
「いきなり侵入して大丈夫かな」
「マダムは麓に行っていて留守だ。不法侵入だがこの際だ。家ではなく通路と思えばいい」
僕はミドリの無茶苦茶なこじつけに内心、苦笑しながら階段を登り始めた。天井の板を押し上げると、言葉通りキッチンの床らしい風景が見えた。
「誰もいないようだ。行こう」
僕とミドリはキッチンに出ると、見覚えのあるリビングを抜けて出入り口の前に立った。
「さすがに外から施錠されてるってことは……」
僕がドアの取っ手に手を掛けようとした、その時だった。ふいにドアが向こう側から開けられ、目の前に思いもよらぬ人物が現れた。
「あ……」
人物は僕を見て一瞬、目を瞠った後、ほっとしたように眉を下げて戸口にへたり込んだ。
「……マーサさん」
僕が名前を呼ぶとマーサははっとしたように顔を上げ、僕に向かって助けを求め始めた。
「秋津先生、すみませんが私と一緒に離れまで来てください。早くしないとあの人が……」
「あの人?」
困惑しながら振り返ると、ミドリが険しい表情で「行こう、もう猶予がない」と言った。
僕らは外に出ると、ドアを閉めてマーサに促されるまま、離れに向かって歩き始めた。
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