第34話 密室の外の事件は秘密!
「……迷谷さん、ちょっと地下の様子を見てくる」
「地下の?どうして?」
僕は草野がどこかへ行ったこと、弓彦が外を見に行ったことをかいつまんで話した。
「そっか。いったんエレベーターで地下に行けるとわかったら、滞在中に一度は覗いてみたくなっても不思議はないわね。……いいわ、私も一緒に行く」
僕は「わかった、行こう」と返すと、みづきと共にリビングを出てエレベーターへと向かった。乗り場に着いて階数表示を見ると、思った通りケージが地下で止まっていた。
「やっぱり。誰かが地下にいることは間違いない」
僕らはボタンを押してケージを一階に呼ぶと、鉄柵を開けて中に乗り込んだ。花の形の突起を捻ると、重々しい音と共にケージが下降を始めた。
やがてずしんという衝撃を靴底に感じ、ケージの動きが止まった。小さなホールに出ると、僕は右側のドアを押し開いた。
「ここ……何の部屋?」
僕の肩越しに中を覗き込んだみづきが、問いを放った。
「ここは『しかばね』の……村長の息子の部屋だよ」
僕が答えると、みづきは目を丸くしながら中に足を踏み入れた。前回、ここに来たときは隣の寝室に住人がいたが、今回はどうだろう。僕が奥の扉に近づき、ドアに耳を押し当てようとしたその時だった。いきなりエレベーター側の扉が閉じられ、施錠された。
「……なんだ?」
「ちょっと、閉じ込める気?」
咄嗟にみづきがドアノブに飛びつき、力任せに回そうと試みた。だが、ドアノブはびくともせず、僕は向こう側にいる何者かの悪意を強く感じた。
「どうしよう……携帯で母屋に助けを呼べないかな」
みづきが青ざめた顔で僕に意見を求めた、その時だった。ドア越しに「うおお」という呻き声と、人が倒れるような音が伝わってきた。僕らは顔を見あわせ、再びドアノブと格闘を始めた。回ることを期待しながらドアノブを左右に動かし続けていると、やがてがちゃりという何かが外れる音がして、ドアが向こうから押し開かれた。
「――大丈夫か?」
開いたドアの隙間から顔を出したのは、弓彦だった。
「神楽先生……」
「君たちも地下に来ていたのか。……この部屋でいったい何をしていたんだい?」
「実は突然、外から鍵をかけられて……そういえば草野先生は?」
僕がいきさつを説明しつつ草野の消息を尋ねると、弓彦は身を引き無言で背後を示した。
「……あっ」
エレベ―ターホールに移動した僕らは、奥の地下通路を覗き込んではっとした。
「僕が地下についた時は、すでにああだった。安藤さんを呼びにいった後、君たちが中にいることに気づいたんだ」
弓彦の目線の先には、通路の床にへたりこんで宙を見つめている草野と、何か話しかけながら抱き起こそうとしている安藤の姿があった。
「草野先生……なにがあったんだろう」
僕が呟くと、弓彦が「あの表情に見覚えはないかい?どうやら草野先生も『しかばね』の仲間になってしまったようだ」と口元をゆがめながら言った。
僕は弓彦が口にした事実をすぐには呑みこめず、えっと叫んでその場に立ち尽くした。
「草野さんが『しかばね』……」
通路の端に呆然とたたずむ僕とみづきを尻目に、弓彦は草野の救護を手助けすべく安藤の方へ向かっていった。草野と安藤たちが先にエレベーターに乗り込んだのを届けた僕とみづきは、揺れ動く気持ちを持て余しながらぼんやりとケージが戻ってくるのを待った。
「……ついに半分になってしまった。僕も作品ができたらチェックアウトしたい気分だよ」
「そうね。最終日には誰もいなくて作品だけが残されてた、なんてこともあり得るかもね」
僕らはやってきたケージに乗り込むと、一切言葉を交わすことなく一階へと向かった。
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