ルシファーの娘婿になってみた

スリムあおみち

第1話

「あたし子供だから、何もわかりませーん」

 インターホン越しに舌足らずな少女の声が聞こえた。いつものことだが「市役所から参りました」と言えばこの返事が返ってくる。詳しくは「税務課から滞納している住民税を取り立てに来た」なのだが納税者の体面もあるのでそこまでは言わない。


 だが、平日の昼間から家にいるこの少女は学校に行っているのだろうか。名前は課税台帳端末で確認。飛騨乃アヤミ。生年月日から算定して17歳。父親の飛騨乃ジン50歳喫茶店経営はかなりの額を滞納しているのに督促状も無視。今月末までに何の返答が無ければ銀行口座差し押さえ処理をする予定。


 飛騨乃ジンが経営する喫茶店『エデン』は僕の母を含む近所の奥様方のたまり場。ベークドアップルがおいしいが素人目にも客の回転率が悪い。店主の飛騨乃ジンは僕が子供の頃からハンサムで、東京の大学を卒業して地元の釈有留市役所に就職して5年経っても、つまり10年以上前から若々しいハンサム。『エデン』が奥様方のたまり場になるのはそれも理由の一つ。


 娘のアヤミは最近見かけない。東京の大学に進学する前は小学生で黄色い帽子に赤いランドセルを背負って集団下校していたような気もするが印象に無い。


「飛騨乃さん、居留守使ってるんだよ」とは徴税相方の塚本さんの愚痴。徴税業務は2人一組が基本。『エデン』に直接行かないのは課税上の住所ではないから。無駄足も仕事のうちと自分に言い聞かせながら自宅のアパートに帰宅。


 その前に寄ったコンビニでチキンから揚げ弁当と炭酸飲料をかごに入れ、レジに持っていくとかごの中にアイスキャンディーとソフトクリームが横から放り込まれた。なんだと思い横を見ると黒髪ストレート色白細身でトレーナーにジーンズ姿の女の子。


「小野さん、一緒に食べよ」すまし顔で前を向いたまま少女がのたまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る