第23話 ミサンガ
次の日訓練に向かうとそこには、影狼に切られた髪をショートカットに整えた雪ちゃんが私達を待っていた。
「昨日は二人ともありがとう。」
と彼女は昨日の夜に比べ落ち着いた様子で、私達を出迎えてくれた。
そんな雪ちゃんを見て快兄も安堵しているみたいだ。
「大した事はしてないさ。雪ちゃん、短い髪も似合っているよ。」
「ありがとう、快晴お兄さん。こんなに短いの久々だからどうかなって思ったけど、快晴お兄さんがそう言ってくれるなら、ボクこの髪型好きになれそうだよ!」
これでまた、快兄への依存が深まったのでは?と思ってしまうけど、雪ちゃんが元気になったのは
私も嬉しい。
「ボク、二人に昨日のお礼を持ってきたんだ!」
そう雪ちゃんが私達に手渡したのはカラフルな糸でで作られたミサンガ。
「あんまり、上手じゃないかも知れないけど、ボク頑張って二人にお礼の気持ちを込めて作ったんだ!ボクの分もあるから、三人でお揃いだね!」
まさか、私の分まであるとは!なんだか雪ちゃんと距離が近くなった気がして少し嬉しい。
これで、盗撮してるカメラを何とかしてくれればもっとちゃんと喜べるんだけど。
「はい!こっちが快晴お兄さんで、こっちが秋晴お姉さんね!」
私に渡されたのは、青色と白色で作られおり明るい印象を受ける物で、快兄に渡されたのは、赤色と黒色で作られた格好いい感じの物。
わざわざ作り分けてくれたのか、と思い雪ちゃんの手元のミサンガをみれば、そこには快兄とお揃いのミサンガ。
・・・ですよね。分かってた。分かってたんだよ。雪ちゃんが快兄とお揃いの物をもてるチャンスを逃すわけ無いって事は。
「わー!二人ともすっごく似合ってるよ!」
「ありがとうな、雪ちゃん。俺も秋晴も大事にさせてもらうよ」
私達に付けられたミサンガを見て喜ぶ雪ちゃんに快兄はそう伝えながら頭を撫でた。
☆
それから、数日の間影狼が出る事もなく、成果の出ない訓練を続ける日々が続いた。
快兄は未だ自分の中の力を感知出来ないこと〔そんな物はないのでしょうがないのだが〕を歯がゆく思っているようで、大分熱が入っている。
そんな快兄に雪ちゃんも落ち込んだ様子すっかりと消えたようで、今まで通り指導に見せかけたスキンシップを取る姿が目に入る。
こんな事ならもう少し落ち込んでもらっていても良かったかも?なんて考えが頭に浮かんだりもしてしまった。
「快晴お兄さんの力は少し、ボクらと違うのかもしれないね。」
とは雪ちゃんが口を開いた。
いつまでも先に進まない快兄の御光について思う所があるらしい。
「考えてみれば、快晴お兄さんが御光を使ったのは誰かが危険に陥った時だけだった。もしかしたら何か発動する条件があるのかも知れない。」
あながち間違ってもない。
それ以外の時に私が快兄にカモフラージュさせて力を使う事など無い。
快兄もその雪ちゃんの言葉に思い当たる事があるように頷いた。
「・・・そうかも、知れない。俺が力を使った状況だけ考えれば雪ちゃんの言った通りだ。と言うことはこの自分の中にある力を感知する訓練は意味が無いって事か?」
その言葉に雪ちゃんは首を振った。
「ううん、正直まだ分からない。だからこの訓練は続けて行くよ。だけど、この訓練ばかりしていても仕方ない。快晴お兄さんの御光が本当にピンチに発動するような物ならそれを考えた訓練もしないと。」
「ピンチを踏まえた訓練?一体どうするんだ?」
「それはね、ボクのクマを使って近接戦闘の訓練をしよう。あっお兄さんは反撃しなくてもいいよ!御光を使っていない攻撃しても意味ないから
。」
「じゃあ俺は何をすれば良いんだ?」
「避ける事だよ!ピンチに発動出来るとしても、使う前にやられちゃえば意味ないからね!快晴お兄さんは攻撃を避ける事に慣れよう!」
雪ちゃんの考えには私も同意する。
いままではタイミング良く力を使える事が出来たけれど、これからも上手く行くとは限らない。
力を感知するよりもこちらに力を入れて貰ったほうがありがたい。
「・・・そうだな。御光が使える前にやられてしまっては元も子もないもんな。分かった。雪ちゃんよろしく頼む。」
快兄の言葉に頷くと雪ちゃんは部屋の片隅に置いてあったミドルサイズのクマを御光で動かし始める。
「本当はもっと大きなクマのほうが良いのかも知れないけど、髪も短くなっちゃったしストックの補充が厳しいからこれくらいのサイズでやらせてもらうね!」
「ああ。大丈夫だよ。」
その返事を聞きクマを快兄の前に対峙させる。
「さっきも言ったけど、反撃はしなくていいから。影狼だと思って触れられたら死ぬくらいに思って避けてね!」
その言葉を言い終わると同時、クマが快兄目掛けて体当たりするように突っ込む。
快兄はそれを咄嗟に横に避けるが、生物ではないクマは動きを止める事なく快兄へ迫る。
「快晴お兄さん!一瞬避けたからって、気を抜いたらダメだよ!とりあえずは3分!ずっと狙われると思って動いて!」
動きの予測がつかないであろうクマに快兄はどんどんと追い詰められていき、結局1分もたたないうちに体に触れられてしまった。
「まぁ、最初はこんなものかもね!でもずっと続ければ良くなっていくよ!」
「ああ!!」
快兄は心なしか楽しそうだ。
なんの成果も出ない瞑想の如き訓練よりも楽しいのだろう。
それから30分程動き続けた快兄は肩で息をしながら、体中に汗をかき、それを雪ちゃんが甲斐甲斐しく拭いている。
この訓練は私としても賛成だったけれど、雪ちゃんの本当の目的はこれだったのかも知れないな、と思うとまた少しだけ頭が痛くなってしまった。
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