本当は私です!!〜無能力者の兄が最強能力者だと勘違いされました〜
@doratam
全てのはじまり
第1話可愛い私の不幸のはじまり
朝からずっとツイてない一日だった。
いつもより跳ねる寝癖は頑固で、櫛をどれだけ通しても直らず、いつもは浴びない朝のシャワーに時間を取られてしまい、朝ご飯は食べられ無かった。
時間に追われるように家を飛び出し、車両が到着するベルの音に慌てて飛び乗った電車の中でも、太った油ギッシュなおじさんに耳元で
「君可愛いねぇ、いい匂いするねぇ」等と延々と耳元で囁かれた。
体には触れられず痴漢と呼んでいいのかどうか分からないが、セクハラには間違いなかった。
私、朝日
王子様なんて現れなくていいし、アイドルと街中で出会って恋に落ちたりしなくていいし、異世界なんて行きたくもない。
ああいった世界はフィクションであるから面白いのである。
想像の世界だから楽しめるし、笑える。
だから、この痴漢まがいだって大事にするつもりはない。
おっさんも囁いているが、間違いなく私は可愛い。腰まで伸びた艶良く、痛み一つない黒髪。
大きな二重の瞳に小振りな唇、鼻は少しだけ低いのが気になるけど、形は悪くない。
スタイルだって良い。胸はそこまで大きくないけれど腰のくびれは私の自慢の一つだ。
食事もバランス良く食べているし、きちんと運動だってしてる。美容は一日にして成らずなのだ。
だから、そんな私に誘蛾灯に誘われた蛾のようにおじさんがフラフラ寄ってきてしまうのも仕様がないのだ。キモいけど。
勿論、体に指一本でも触れたら容赦するつもりもない。
兄が読んでたエロ本みたいに簡単に流される私ではないのだ。
この油バエのようなおじさんも隣のおじさん私を卑猥な目で見ているに違いない。汚らわしい!
そんな、苦痛の電車に15分程揺られ着いた駅では、置いていた自転車が盗まれていた。
駅から学校までは自転車で5分。歩いても15分程だが、朝が強くない私にとってこの差し引き10分は貴重な時間だ。自転車があれば、始業のベル5分前に着くが、なければ遅刻が確定する。
セクハラに耐えた私に、後追いをかけるような仕打ちに舌を打ち、小走りで学校に向かう。
無事遅刻にならず到着する事は出来たしが、その後も踏んだり蹴ったりだ。
息をあげて学校に到着すれば、皆から注目を浴びるし、朝食を抜いてきたせいか授業中にお腹は鳴って隣の牧野君に笑われってしまう。
恐らくお腹が空いたなら、僕のキノコを、などと兄の持つエロ本の様な事を考えていたに違いない。汚らわしい!
購買に行けばやたら、カロリーと糖分の高い丸いデニッシュにしか残ってないし、口直しにと自販機のコーヒーのボタンを押せば何故かおしるこが出てくるし。
厄日と言うものがあればきっと今日なのだろう。
散々疲れて家に帰ろうと思えば、自転車がない事を思い出して憂鬱になる。
部活は早退して自転車盗難の届けを出し、家に着いたのは午後6時を超えていた。
☆
良くある事なのだけど、今日もママは残業で帰りは遅くなるようで、その間家事は兄妹で分担して行っている。
今日の食事の担当は私の筈なのだが、リビングの扉を開ければコンソメの良い匂いが漂っている。
「おう、おかえり。帰り俺の方が早かったから飯作っておいたぞ」
双子の兄、
厄日だった筈の今日だけど、少しは良い事もあるみたいだ。
「ただいま、快兄。当番私の筈なのに、ありがとう。なんか手伝おうか?」
「後は盛り付けするだけだから良い。それより先に着替えて来いよ」
その快兄の言葉に甘え、さっさっと着替える事にする。
降ろしていた髪を結い上げ、ジャガーだかヒョウだかがプリントされたジャージに着替えると、ようやくリラックス出来た気がした。
制服と荷物を片付けリビングに戻れば、食卓の上で快兄が準備してくれたご飯が私を待っていた。
「有り合わせで作っちゃったから適当でスマン。なんか作る予定あったか?」
取り皿を運びながら快兄はそう言うが、中々に私好みのご飯が並んでる。
サラダに、圧力鍋でしっかり煮込んだであろうポトフ、それになんといってもオムライス。
これは食べる前に卵を割ってトロトロな状態で食べれる工夫がしてある様だ。
我が兄ながらいい仕事である。
「ううん。買い物も行けなかったし、私も今日は適当に作っちゃおうと思ってたから。」
私の返事にそうか、と微笑む快兄は妹の私から見ても整って見える。
快兄は優しい、その上イケメンである。
一卵性の双子なのだし、私がこれだけ可愛いのだから兄も整っていない筈がないのだけれど。
異性として見たことは一度もないが、普通に考えれば優良物件には違いない。
別々の高校に進学してからはないけど、中学生の頃は日々告白の返事を共に捻り出したものである。
快兄は告白とは受け取っていないものが多かったが、皆獲物を狙う目をしていたので告白に違いない?ママに
「あなたはお兄ちゃん。妹や女の子には優しくするのよ。」
と子供の頃から躾られてきた快兄は、それをずっと忘れずに実行してきたのだ。
幼い男子特有の女子と共にいることを恥ずかしがる事もなく、いつだって困っている子に声をかけていた。
そんな快兄だからモテることは不思議では無かった。
ただ、妹からして何とかして欲しい部分もあるのだ。
優しすぎて少しおかしな輩からもやたらとモテる。
バレンタインのチョコには髪の毛や爪が混じっている事はザラにあるし(恐らくはそれ以上の物も)、真っ赤な文字で好き、の字が書かれすぎてもはや解読不可能な手紙、自宅の留守電には彼女気取のイカれた留守電が残されていたりと、あげればキリがない程だ。
幸いにして、私に直接的な危害が及んだ事はないが(迷惑は十分かけられている)、そこらへんだけは快兄にもそろそろ学習して欲しいものである。
そんな事をつらつらと考えている私にレモン水を渡し、テーブルに着いた兄は
「冷める前にたべちゃおうぜ」
と幸せそうにオムライスを口にした。
そんな快兄の顔を見ていると、散々な一日ではあったけど、最低では無かったのかも思えた私は、オムライスを一口頬張り停止した。
グリーンピース!!
卵はふわふわトロトロで、絶妙に仕上がっている。文句ない。文句なんてないのに、グリーンピース!
青臭さ、豆臭さが口にしっかりと残る。これだけで絶品オムライスが残念オムライスに早変わりだ。
急いで口に残った味を消そうと、ポトフに口をつければ。
グリーンピース!
まさかの二段構えである。前門のグリーン後門のピース。
幸せな食卓は未だ厄日の終わりを告げるものでは無かったのだ。
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