第21話
Cap019
『日本国民の諸君!私は悪の総帥である!この度、憎き宿敵。Atomと、その仲間達を倒す為、私はこの地に降臨したのである!今後、奴等のアジトである兵庫総合大学は、私と私の忠実な僕達により、火の海に変わるであろう!お前達も命が欲しくば、我々の仲間になるがよい!』
人工知能を持つお茶ノ水博士が作った“悪に総帥”は、自ら学び、自ら行動する。簡単に電波をジャックし、地上波、衛星放送、ネットを問わず、その放送は一斉に世界中に流れ、Atomの存在は皆の知る所となったのである。
『また、現在。悪の本部建設のクラウドファウンディング。並びに、私の愛称をネットで募集中である!応募いただいた中より抽選で100名様に悪の総帥オリジナルQUOカード1000円分をプレゼント致します!奮ってご応募ください!』
「何か、変なこと始めましたよ、あいつ」
「ちょっと待て!今、応募先のアドレスをメモってるから」
「なに応募しようとしてんですか…」
放送が流れて直ぐに、消防や警察そして、マスコミが大学に押し寄せたのは言うまでもない。散々、爆破騒ぎだ。何だと引き起こした次は、“悪の総帥”からの名出しでの宣戦布告である。それに加え、プレハブ校舎を完全に破壊し横たわる“メカゴジラ”は、朝一の授業の為、大学へ登校した学生達の携帯にしっかりと収められ、あらゆるSNSを駆け回ったものだから、近所の野次馬だ、訳の分からんyoutuber だで、大学周りも人でごった返している。
「会見は、後ほど。ちゃんと、後ほど行いますから!」
学長が死に物狂いで、その野次馬達と取り囲む報道陣から抜け出し、非常線が張られた小屋側に逃げ込んできた。
非常線を越えると、直ぐそこには“メカゴジラ”が未だ、手足をバタつかせている。学長は、それに出来る限り距離を置き、ぐるっと“メカゴジラ”を回り込むように走り、小屋に入ってきた。
「あれは、どうにかならんのか!」
片手を膝に付き、もう片方の手で“メカゴジラ”を指す学長の、その悲痛な叫びは、息切れと極度のストレスで、ほぼ全てが裏返っている。
「ワシに言わんと、“悪の総帥”に言え!」
「だから、その悪の総帥とは、いったい全体、何なんだ!」
「知らんがな!ワシに言うなっちゅうに!」
『あぁ、この人は、あくまで何も知らないを貫き通す腹を決めたのだな…』
僕は、博士と学長のやり取りを聞きながら、ここは博士に同調しておこうと、心に決めたのである。
“バラ、バラ、バラ、バラ!”
「くそっ!ヘリまで馬鹿みたいに飛びよって!俺の大学の敷地上空を、勝手に飛ぶんじゃない!」
小屋の外へ出て、そう叫ぶ学長の姿を、上空のヘリから撮影したライブ映像がテレビで映し出されている。
「止めとけ!テレビに丸まんま流れとるぞ!くたびれたジジィが狂い叫ぶ姿が!」
博士の言葉に、渋々、学長が小屋に戻る。
「こうなったら、大々的に、この子をアピールするしかない。…そうだ!向こうが“悪の総帥”なら、こっちは“正義のヒーロー”だ!この子にも、会見に出てもらうぞ、わかったな!」
「えぇ?ワシのAtomは、見せもんではないぞ」
「うるさいっ!こっちは、大学の存亡が懸かってるんだ!どうにかして挽回せねばならん!そうと決まれば、会見の場所と時間を発表せねば…」
「あのぅ…」
そう意気込む学長とは相反し、えらく謙遜した学生が小屋に入ってきた。
「何だね、君は!私は忙しいんだ!」
「あのぅ。うちの学部長は、こちらに来ていませんか?」
「あぁ!?」
「機械工学部長です。朝から姿が見えなくて…」
所変わって、悪の総帥の隠れ家では。
「いいですねぇ。いいですねぇ。悪のロボットですか!」
『ちょっと、あんた。人質なんだから、もう少し、人質らしく大人しくしてもらえんかね?』
「いやぁ、乗り掛かった船ですから、協力いたしますよ!あのAtom君を倒せるロボットを作れるのは、私だけですから!ロボット作りは私に任せておきなさい!」
『これは人選を間違えたかもしれん…』
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