第18話

Cap016


 プレハブ校舎が急ピッチで建てられ、間も無くして授業は再開された。

また、その日を境に機械工学部の教授も、やたらと小屋に出入りする様になったのである。


「また、アトムを触りにきたのか!もう、十分に見せたじゃろ!」

 アトムの放射能漏れ事件以後、その教授はアトムに夢中である。

「お前、いい加減、変態に間違われるぞ!上半身裸の少年をベトベトと触りおって!」

 

 博士は、ご不満なご様子だ。


そもそも、アトムを人に見せたくなかった博士が、学長の命令で渋々、この博士に放射能の漏れを直してもらったのが、事の始まりである。

 機械工学部の研究室。教授の棲家である。

元はと言えば、そこは大学敷地内の西の外れに位置していた。この小屋から見れば、最も離れた場所にある。

そして、この教授はといえば、お茶ノ水博士と並ぶ、この大学では“二大巨頭”と噂されるマッドサイエンティストである。年は、お茶ノ水博士に比べ、えらく若い。そう、40かそこらであるが、その天才的な頭脳から若くして教授になり、我が大学の機械工学部長の座に就いている。

 見た目は、どうかというと。

単的に言えば、細長い。とても細く長く、まるで鉛筆のような背格好である。いつもスーツを着て、大学内を群がる学生達の僅かな隙間を、その体型を活かし、すり抜けていく。

かけるメガネは、常に汚れを拭き取られているのか、キラキラと光り、その先の教授の目をこちら側に通さない程である。


 この二大巨頭を、片や西の端。もう片方を東の端に配していたのだから、この大学は“守らざるべき者が守る魔法陣”の内側に置かれた災難の巣窟であるのに間違いない。

 その教授が先日の爆破事件により、プレハブ校舎内に引っ越してきた物だから、小屋は連日、マッドとマッドの東西揃い踏みである。


「ここの駆動に使ってるモーターは、いったい何を…ハ、ハイ…」

「ハイパーダッシュモーター!」

「そんな物で動いてるんですか!?」

 言わずと知れたミニ四駆のモーターである。

こんな精密に動くアトムの一部が、オモチャのモーターだなんて考えられない。

「なるほど、興味深い」


 どうも納得らしい。


「この人工知能は、どのように作ったのです?」

「siriのプロミングを少し改造しただけじゃ」

 淡々と2人の会話は続いていく。

早く帰って欲しい博士は、ぶっきら棒に、そう言うが、一体どのようにしてアップル社からsiriのプロミングを持ってきたのか…。

「あのプログラムには、少し欠陥がありましたね。私も先日。少しばかり手を加えまして、現在、学習をさせているのです。いやぁ、あの24,349行目のバグは直すのに1ヶ月も掛かってしまいました。1つ直すと、次から次にエラーコードに派生してしまって。いや、まいった、まいった」

「ふん!掛かり過ぎだぞ!ワシなんぞ、あんなバグ、3日で直したわい!」

 互いに専門分野の枠は、とうに超えている。と言うより、こちらのマッドも既にsiri のプログラムを入手済みのようである。


「おや、ここのリレーおかしいですね」

「あぁ、そんな事あるか、見してみぃ!」


「ほら、ここに無意味なバイパスがされてます」

「あっ、本当だ。じゃぁ、こっちを切って、こっちに」

「いやいや、ここに繋いで、こっちを切らないと」

「そんな事したら、ここが直結しちゃうじゃないか、ハハハハッ!」

「こんな感じで、こう。グフフフフッ!」

 マッド同士が、どうも通じ合ったいるようである。

「あの、博士!腕が勝手に…博士!」

 その憂き目に合っているのは、どうやらアトムのようである。

2人のマッドが弄くる配線のせいで、アトムの腕は、アトムの意思に反して動いている。

「いっそ、ここを繋いで…」

「いいですねぇ!」


“ガチャン”


「わわわわわっ!」

 アトムの右腕の半分が切り離される。すると、そこから出てきた金属のノズルのような物の先端が青白い光を放ち、大きくなっていくのが分かる。


「入るぞ!」そして、また間の悪い事に、こういう時は、そういう所に学長がうまく出くわすものである。


「さっきから、チャイムを鳴らしてるのに、何で誰も出…」

 目の前で大きくなる光に気がついた学長は、目を大きくし咄嗟に床に飛び込んだ。僕も、その学長の姿を見て、すぐに我が身の危険を感じ取った。

「これでヨシと!」


“バシューン!”


 博士の言葉と同時に放たれた線光は、床に飛び込んだ学長の頭、スレスレを走り、学長が開けたドアから、まるでライズボールの軌道のように浮き上がる弧を描き高速で外に飛び出した。


 飛び出した線光は、前回の唯一爆破から逃れた学長自慢の時計塔に一直線。

見事に時計のど真ん中。ダブルプルを決めるのである。


“ゴーン!ゴーン!”


 時計が高得点を知らせる。そして、その支えを失った時計の針が遥か下の地面に落っこちていく。

「…あっ、お昼だ。飯でも行くか」

「では、私もお供します」

 何事もなかったように、仲良く昼食に向かうマッドな2人。

そして、その2人の足首を両手でしっかり掴み、うつ伏せのまま倒れている学長も…またマッドである。

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