第2話


Cap001


 兵庫総合大学。僕は、ここの大学3回生だ。

どうも、この3回生というのは、地域柄、関西圏の学生間でしか使われていないらしい。だから、正式に言うと僕は大学3年生となる。

 3年になると、この大学ではゼミの所属先を決めなければいけない。

冠にあるように総合大学とあって、その学生数は膨大で、その全員が何処かしらの教授のゼミに所属するのだから、その振り分け作業は壮絶な物となる。

「ここ、ここ!」


 僕は、引き下がれなかった。

僕が僕の意思で書いた志望届けの第1から第5希望ならば、こうはしなかったのだろうけれど、年に1回か位しか、そのドアを開ける事をしない大学総務の部屋に僕は押し入って、自分が配属となった総外れ第1位のゼミのクラスに不服を申し立てたが、帰ってきた回答は、志望届けの紙の1番下。誰もが目を細め見るであろう、故意的な小さな字の注意書きをペン先で指し示す事務員の冷たい対応のみだった。


“配属に当たっては、定員の割り当て数により抽選で決定し、抽選から漏れた場合は、志望届けにある第2志望から順に再度、抽選により配属を決定する。第5希望からも抽選から漏れた場合は、割り当て数を満たさないゼミから無作為に配属を決定する“


 ややこしい。要は、ドラフトで1人、天才ピッチャー。夏の甲子園優勝校で1人投げ抜いた、その超逸材を選択希望選手第1位とし複数球団が指名した場合のそれである。クジを外せば、外れ1位を指名して、そこで競合したら、再度抽選を繰り返す。ただ運任せなアレである。やはり、よく分からない。そんな人は、父親にでも聞いて欲しい。


「外すねぇ…なかなかの確率。まぁ、これもまた人生って事で」

 そんな捨て台詞を残し、お昼のチャイムと同時に事務員は、休憩中の置き表示を僕と事務員の間を遮るカウンターに置くと、カウンター上部に据え付けられたレールカーテンを、シャッと下ろした。また、それを合図に、横、その横、また、その横と並ぶ受付もレールカーテンを閉め、部屋の蛍光灯は全ての申し入れを遮断する様に落とされ、部屋は暗闇に包まれた。


 落胆する僕。すると、カウンターとレールカーテンの、ほんの小さな隙間。2ミリ程度にも満たない間から1枚の紙とメモが僕の方に差し出される。

“掲示板のスライドガラスの請求書です。振込みのほど宜しく”


 泣きっ面に蜂という諺。まさに、それである。

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