第119話 竜族
「あれ? こんなところで珍しくドラゴンが飛んでるね。アルアダ王国の領土内で見かけたのは初めてかも」
先頭で馬車を操るエルキュールが空を見上げている。
ドラゴン。
この世界に来たばかりの頃、古代竜というものに遭遇した。あの遭遇戦は俺にとって最大の過ちで、できれば思い出したくない記憶だ。
たぶんあれもドラゴンの一種だと思うが、まさかマテウスの親戚なんてことはないよな。
俺は何だか急に不安になってきた。ハーフ竜族とは、親がドラゴンと人間という意味のはずなのだから。
「こんなエリアでドラゴンですか!?」
当然というべきか、想像通りハーフ竜族のマテウスがすぐに反応して馬車から顔を出した。
エルキュールやマテウスの感じでは、この辺でドラゴンが出没するのは珍しいということなのだろう。
「俺にも見せろよ! ディルクのじいさん、ドラゴンもワイバーンみたいに乗れたりするのか?」
ジャスティンも馬車の端へ移動した。
「ドラゴンは特別な種族でございます。どんな魔物使いでもドラゴンを使役することはかないません。ドラゴンに乗るには特別な契約を結ぶか、圧倒的な力でねじ伏せるかぐらいでしょうか」
「へえ、ドラゴンってすげえんだな! なんか余計乗りたくなってきた! な、マテウス!!」
ジャスティンがキョロキョロとドラゴンを探している。
マテウスは聞こえていなかったのか何も言い返してこない。
いや、というよりもっと違うことに気をとられている様子だ。空を見つめたまま表情が固まっている。
気になって彼の視線の先を追いかけると、かなりの上空に飛行中のドラゴンを見つけた。
ステータスを見て、マテウスが驚いている意味を理解した。
--------------------------------------------
名前 古代竜アウレサンドリウス
レベル 167
種族 古代竜
HP 40861/40861
MP 20164/20164
攻撃力 14931
防御力 12947
--------------------------------------------
「あれは……アウレサンドリウス様……。なぜこんなところに……」
「なんだマテウス。あのドラゴン、知り合いか?」
「失礼な言い方をするな! 普通のドラゴンと一緒にしていい御方なんかではない!!」
「ん? なんだよそれ?」
「あの御方は古代竜アウレサンドリウス様! 竜族にとっては神に等しい存在だ!!」
冷静沈着なマテウスらしくなく興奮している。
やはり古代竜というのは、その辺のドラゴンとは違う特別な存在であることは間違いなさそうだ。
古代竜はこちらに気づく気配もなく、そのまま飛び去っていく。
地図を開くと、以前遭遇した古代竜と同様に赤い点で表示されていた。
「あ~あ、行っちまったな。大声出して呼べばよかった」
「なっ?! 何言ってるんですかジャスティン殿!! ドラゴンなんかに気づかれたら大変ことになってしまいます!」
「そうっすよ、ジャスティンさん! あんな恐ろしいモンスターに襲われたら、いくらこのメンバーだって……」
ヴィンスとアランが必死の形相で言った。
そういえば二人とも、ドラゴンを見るために顔を出したりしなかった。
「アラン、ヴィンス。どうやらお前たちは、竜族のことを勘違いしているようだな」
マテウスが二人の前まで近づくと、いつものように冷静に言った。
少し怒っているように見えるマテウスに、二人の顔はひきつっている。
そんな二人を無視するかのように、マテウスは更に近づいて話を続けた。
「竜族は人間や魔族なんかより高い知性を持ち、本能のまま戦うモンスターとも違い好戦的ではない。お前らが恐れるのは低位の竜族で、あんなモンスター寄りだけ見て竜族全体を決めつけるな。ましてや古代竜は竜族最上位の存在。我らのような小粒を相手にされるようなことはない! 分かったな?」
分かったのか分かってないのか、アランとヴィンスは懸命に首を縦に振った。
「さっきのはそんなにすげえのか。やっぱ声かければ良かったな」
「ジャスティン。お前は私の話を聞いていなかったのか? アウレサンドリウス様はこの世界に三体しか存在しない古代竜。我らが簡単に声を掛けてよい御方ではない!」
「ふ~ん、そっか。じゃあ何でこんなとこ飛んでんだ?」
「そ、それは……。たしかにアウレサンドリウス様は、海を渡った遥か遠くの大陸にいらっしゃるはず……」
「あれが古代竜って言うなら、ボクもそれが気になったんだよね」
馬車を操作しながら、エルキュールも会話に入ってきた。
「兄ちゃんも?」
「うん。この辺はアルアダ王国と魔族エリアの境界付近。ってことは勇者マリーか魔王アデルベルトの領域内のはずなんだ。そんなところに古代竜が侵入してくるなんて思えないんだよね。とくにアウレサンドリウスって、三大古代竜の中で最も温厚な竜でしょ?」
「はい、師匠のおっしゃる通りです。古代竜は領域を侵されることを極めて嫌います。その代わり他の領域を侵すようなことも決してしないはず。争いになることも考えられますので、アウレサンドリウス様なら尚更。向かっている方向が、古代竜ジオルドラード様の領域というのも気になります……」
……なんだか思い当たるふしが色々あるな。
俺にとって段々落ち着かない話になってきたが、考えても仕方がないということで、とりあえず竜族の話題はここまでになった。
ただ、口数の少ないマテウスから竜族の話を聞けたことが、俺としては良かったなと感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます