第8話 アドリーヴェン大森林

 光の柱に包まれたドラゴンが消滅していくのを確認した。


 なんだよ、ドラゴンでも一発か……。


 俺は、ドラゴンもスライムも、何も変わらないことに気づいた。

 こちらが攻撃を受けてもまったく効かないし、攻撃をすれば一撃で倒してしまう。


 ゲームだったら少しも面白くない。

 俺はこの世界で戦いを楽しむことはできないようだ。


 それにしても今の声は。


「神様、いるんですか?」


 見回しながら探してみる。


「……」


 とくに反応がない。

 気のせいだったのか。

 いや、そんなことはない。間違いなくあのジジイだ。


 俺は心の中で罵ってみたが、姿もないし声も聞こえない。

 俺と話す気はないらしい。


「まあいいですけど」


 俺はモンスターと戦いにならないよう、また何かが近づいてくる前に立ち去ることにした。

 正直、もう戦闘は勘弁してほしい。


 俺は黙々と大森林を目指し歩き出した。



 それから更に三日が経ち、一度もモンスターと遭遇することなくアドリーヴェン大森林に到着した。


 ここに来たのは何か目的があったわけではない。

 人間から逃れ、魔族から逃れ、モンスターから逃れて、やっと辿り着いただけでしかない。


 中立エリアに来たところで……。


 ホントにどうしよう、という感じになっていた。


 地図を確認してみると、中立エリアとなっているこの大森林は、赤い点も青い点も、他のエリアに比べると極端に少ない。

 人間が住む人間エリア。魔族が住む魔族エリア。そして、ずっと歩いてきた広い荒野のように赤い点しかない地域は、モンスターが住むモンスターエリアなのかもしれない。


 で、そのどれでもないここが、中立エリアってことなんじゃ。


 俺は勝手にそう解釈した。


 それから俺は、ただ何となく大森林の中を探検することにした。

 元の世界では動植物好きだったわけではないが、どんな木があるのか、どんな草花が生えているのか、どんな動物たちが棲んでいるのか、観察をして回った。


 この大森林に棲む動物たちは、意外と懐っこい性格で、こんな醜い俺を怖がったりしないことに気付いた。

 木の実をとって手の平に乗せ、小動物に与えてみると何の警戒心も持たず食べにくる。


 実家はマンション住まいだったので、犬や猫などを飼ったことはないが、動物と暮らす生活も悪くないなと思うようになっていった。

 俺はこんなファンタジーな異世界にやってきておいて、大自然での隠居生活のような暮らしに満足していた。



 そんな生活を一週間続けたある日、すぐ近くで赤い点と青い点の反応があることに気が付いた。

 無意識に、いつもより遠くへ足を延ばし過ぎていたようだ。


 たしかあそこは、いつも青い点が一つだけあるあたりだな。戦っているのか?


 俺は赤い点や青い点の位置はしっかり把握していた。

 この広大な大森林の中に、ほんの少しだけそれぞれ存在していたが、どれもかなりの間隔をとっているため、遭遇することはなさそうに思えた。


 ところが今日は、いつも青い点が一つだけある場所に、赤い点がやって来ていた。


 人間が一人でこんなところにいるわけがないし、きっと魔族だろうけど。


 俺は気になって仕方なかった。

 一週間以上も誰とも会話していない。

 実家暮らしの俺にはこんなこと無かったので、ちょっと寂しい気持ちも芽生えてきていた。


 行ったところで戦うわけにもいかない。

 下手に戦うと、この大森林ごと消し飛ばしてしまうかもしれない。


 俺は逸る気持ちを抑え、地図上の点だけをじっと見ていた。

 魔族ならそのうちモンスターを退治するだろう、と思いながら。


 あれ? 逃げ回ってないか?


 どう見ても、赤い点が青い点を追い回しているようだった。

 地図上ではレベルは分からないのだが、もしモンスターがこの前のような高レベルのドラゴンだったら、魔族でも太刀打ちできないだろう。


 青い点はひたすら逃げているようだが、不思議とその場所からあまり離れようとはしない。

 どんな状況か想像がつかなかった。


 俺は居ても立ってもいられず、その場所へ足が向いていた。

 自分が行っても、何も出来そうにないことなどすっかり忘れていた。


 足音をたてないよう静かに近づいてみると、そこは少し開けた場所になっていた。

 地図では木が生えているかどうかは分からない。


 とりあえず俺は、状況が確認できるまで茂みに隠れて様子をみることにした。

 自ら離れて暮らしていたはずだが、久しぶりに誰かと会えるかもしれないと思うと、緊張してきてしまった。


 また剣を向けられるかもしれないな……。


 自分でも顔が引きつっているのが分かる。

 少し暗い気持ちになっていると、ドンと大きな音とともに、モンスターが姿を現した。


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 名前 マンティコアA

 レベル 42

 種族 マンティコア

 HP 1539/1539

 MP 893/952

 攻撃力 460

 防御力 412

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 ライオンに角と羽を生やした姿をしているが、ライオンの倍以上の大きさで、モンスターらしく好戦的なイメージだ。

 今まで会った人間も魔族もレベル30台だったので、ドラゴンは別格としても、レベル42は強力なモンスターの部類になるのだろう。


「きゃあぁぁぁぁっ」


 女性の悲鳴が聞こえた。

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