第4話 初遭遇
三人は、すぐにでも飛び掛かってくる勢いで、こちらを睨みつけている。
そうだった……、ハーフ魔族だった……。
俺は自分の姿を思い出した。
「貴様、その姿、上級種か?」
エドワードが警戒した表情のまま言った。
「上級種?」
魔族に上級とか下級があるってことだろうか。
「この辺は人間エリアだ。なぜ上級種がこんなとこにいる? まさか上級種の野良魔族って言うんじゃないだろうな?」
エドワードは質問ばかりだ。
「いや、あの、俺はハーフ魔族でして……」
両手を上げ、降参した姿勢のまま俺は何とか声を出した。
「ハーフ魔族? 聞いたことないぞ? 貴様、ふざけてんのか!」
エドワードは剣を構えなおした。
「待てエド。彼、羽が無いぞ」
エドワードの隣にいるジェイクが言った。
彼もレベル36の人間だ。
「たしかに……。上級種で羽が無いのは聞いたことないな。貴様ぁ、何故羽が無いんだ!」
「えっと、たぶん、ハーフ魔族だからだと……」
たぶん俺が羽を描かなかったからだけど。
エドワードの剣先が少し下がった。
三人はいつの間にか困惑の表情に変わっている。
「で、そのハーフ魔族さんが、こんなところで何をやってるんです?」
ジェイクが訊いてきた。
「この辺りに来るのは初めてで……。とくに目的があるわけではないんですが」
『神様』に連れて来られたというのは、きっと信じないだろう。
「なるほど、そうでしたか」
「ジェイク! こんな奴の言うこと信じるのか?」
エドワードはジェイクの反応が気に入らないようだ。
「エドの言いたいことは分かるが、もし戦闘になったら、上級種相手に我々三人で勝てるとは思えないよ。それに、彼は何の装備もしてないし、一度も敵意を見せてない」
ジェイクは剣を鞘に納めた。
「お、おい、ジェイク……」
エドワードはこちらに剣を向けたままだが、攻撃してくることはなさそうだ。
「ハーフ魔族さん。先ほどエドが言った通り、この辺は人間エリアです。もし魔族エリアに向かうのでしたら、ここから東になりますので、そちらへ訪れてみてください」
「はあ……、どうも」
人間と魔族が棲み分けているって、そういえば俺が考えた設定のままだな。
「ではハーフ魔族さん、僕らはこれで。剣を向けたことは謝罪します」
ジェイクは軽く頭を下げると、元の場所へ戻っていった。
エドワードは納得いってないのが表情に出ているが、何も言わずジェイクについていった。
一言もしゃべっていない三人目の騎士も、剣を納め戻っていった。
「あ、そうだ、ハーフ魔族さん」
ジェイクが足を止め振り返りながら言った。
「ここから南にずっと行ったところに、クレシャスという町があるんだけど、そこは人間以外の種族に寛容な町と言われてます。さすがに魔族はいないですが、ハーフ魔族さんなら受け入れてもらえるかもしれないですよ」
「なに言ってんだジェイク!」
「まあいいじゃないの」
ジェイクはエドワードの言葉に意も介さないようで、前を向きなおり歩き出した。
クレシャス。
地図を見ると、たしかに南の方にあるようだった。
かなり距離はあるが、いつか行ってみる価値があるようだ。
ん? いつか?
俺はどれぐらいこの世界にいないといけないのだろう。
異世界に来て、まだ一時間程度しか経ってないし、実感も足りてない。
三人の背中を見ながら、俺はまだ半分夢を見ている感覚でいた。
「まずは東にでも行ってみるか」
とりあえず魔族エリアに行ってみることにした。
地図を確認すると、東側は山岳地帯だった。
魔族エリアというわりに、赤い点は見当たらず、ここからだいぶ離れた場所に青い点が一つあった。
こんなところに人間が一人住んでいるのだろうか。
魔族エリアは更に東かもしれない。遥か東へ行くと、赤い点が密集している地域があるようだ。
「この赤い点がたくさんあるところだったら、結構遠いぞ……」
俺はため息が漏れた。
何にしてもこのまま人間エリアにいても仕方がない。
ジェイク達は馬に乗って行ってしまったようだが、また誰かに絡まれたら面倒だ。
俺は東へ向かって歩くことにした。
見知らぬ場所を歩くのは楽しかった。
友人も少なく、一人で行くほど行動力もなかったので、そんなに旅行することはなかった。それでもどちらかと言えば旅行は好きだった。
自動車の免許は持ってないので、もっぱら電車での旅行しか経験はないが、フリーパス切符を買って、のんびりローカル電車に乗ったり、知らない駅で降りて散策したりしたことはある。
なんか一人旅してる気分だ。
俺は異世界旅行を満喫していた。
空を飛ぶ鳥は、羽が四枚あるようで、奇妙な動きで空中に浮いている。
見かける動物も、猫、犬、鹿、豚や牛など、俺が知っているどの動物にも似ていない。
ホントに異世界って感じがして、これなら何日か居てもいいかなと思いながら歩いた。
『神様』は、両親のことは任せろと言っていたし、すぐに戻らなくてもいいかもしれない。
とはいえ、せっかくなら醜いハーフ魔族ではなく、人間として来たかった気もしていた。
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