異世界に行ったら嫌われ者のハーフ魔族になってました

埜上 純

第一章

第1話 降臨

 今日は年に一回やってくる俺の誕生日。

 38回目ともなると、何一つめでたくない。


「やべえ……、40歳が見えてきた……」


 俺は三十年近く使い続けている自分の机に座り、人生に嘆いていた。


 俺の名は後藤 まさる。38歳で独身、フリーターだ。

 警備員の仕事をしている69歳の父と、身体が弱く寝込みがちの64歳の母、三人で暮らしている。


 別に両親を恨んでいるわけではないが、俺の人生がうまくいかないのは、このブサイクな顔のせいだと確信している。

 もっとイケメンに生まれていたら、きっと彼女もでき、結婚をし、子供も作って、家族のために一生懸命働く男になっていたんじゃないかと思う。


 だが俺の現実は違った。

 彼女も作れない、友達もいない、仕事も続かない。

 この顔が俺の人生を狂わせていた。


「やっぱり一発逆転を狙うしかないよな」


 俺は、せめて大金を稼ぐ方法はないかと模索してきた。

 だが結局、ブログ・動画投稿サイト・FXなど、どれも続かないし金にもならなかった。


 小説を書こうとしたこともあったが、そういえば本なんて読まなかったので、最初の一行も書けず挫折した。


「あとは漫画しかねえ」


 俺の部屋を見渡すと、数千冊もの漫画がひしめき合っている。

 漫画を読んだ数だけは誰にも負けてない。膨大な数の漫画を読んできた俺だからこそ、どんな漫画が面白いか一番詳しいはずだ。


 俺はそう思い、誕生日を機に漫画を描くことに決めた。

 めざせ、ワン〇ース! めざせ、鬼〇の刃!


「描くなら異世界モノだな。自分が好きなジャンルを描くのが、一番いいに決まってる」


 まずはストーリーだけでも考えることにした。


 どんな設定にしようか。

 選ばれし勇者が魔王を倒す、なんて今どき流行らないだろうし。

 異世界に転生して、俺TUEEEEしながらハーレムを築く、なんてのも時代遅れかな。

 悪役令嬢とかは、俺には分からんジャンルだ。


「そうだなぁ……。とりあえず勇者と魔王が引き分けた世界にしようか。それにより人間と魔族が休戦協定を結んで、うまく棲み分けてるって設定。うん、悪くない。――――次は主人公だな」


 俺はノートとペンを出し、思いついたことを書き留めた。


 勇者の末裔

 正義感溢れる少年

 転生したイケメン


「うーん、なんか書いてて腹立ってきたな……。なんで主人公ってカッコ良くないとダメなんだ?」


 俺はガラス越しに少し映った自分の姿を見ながら、考え直すことにした。


「やっぱりもっとブサイクな主人公にしよう。醜い魔族とかにしようかな。いや、人間にも魔族にも嫌われてるハーフ魔族とかにしよ。ハーフエルフだったらカッコ良いけど、ハーフ魔族だとカッコ悪いな、きっと」


 ノートのページをめくり、容姿を想像しながら描きだしてみた。

 絵を描くのなんて学生以来だったが、意外と描けないこともなかった。


「最近は人間っぽい可愛い魔族とかもいたりするけど、もっとこう、見ただけでも恐怖する異世界から来た悪魔、みたいなのがいいな。つのも生えてて。ハーフだから羽や尻尾は無いことにしようかな」


 ハーフ魔族ってことなのだが、描いてみるとほとんど人間っぽいところがなかった。

 言葉ではいくらでもハーフ魔族と言えるのだが、絵にするのは全然難しい。


「ま、いっか、イメージが掴めれば。あとは、醜いし皆に嫌われてるけど、メチャクチャ強えってことにしよ。レベルはむげん……、ちょっとそれじゃ幼稚か」


 ∞の文字は二重線で消した。


「あらすじはどうするかな。人間に味方して魔族を滅ぼす、魔族に味方して人間を滅ぼす。んんん……、どっちも滅ぼすとかもあるかな。自分で世界征服するとか」


 なんだか急に陳腐な案しか浮かばなくなってきた。

 漫画家はどうやってストーリーを考えているのだろうか。

 あまり先まで考えず第一話を書いてしまうのだろうか。


「あんまり面白い話になりそうにないな……」

 いつものように、自分に才能がないことに気づき、ため息交じりでペンを置いた。



 ふぉっ ふぉっ ふぉっ


 そんなこともないぞい



 突然、頭の中に声が響いた。


「え? なんだ今の!?」

 驚いて声を上げると、部屋の中が強烈な光に包まれた。


「うわぁぁぁぁーーーっ!」

 何かが爆発するのかと思い、俺は床で丸くなった。


 ギュッと強く目をつむり、両手で耳を抑えた。

 前触れもなくやってきた死の恐怖で、鼓動がありったけの大きな音を出す。



 数秒の時間が過ぎた。

 俺は生きているし、痛みも感じない。


 そう思った瞬間、何かが背中に触った。

 俺は、それが何の感触か想像していると、もう一度何かが触ってきた。


「おーい!」


 急にすぐ近くで声がした。

 俺は声が出ないほど動揺し、自分でもびっくりするほど俊敏に後ずさりすると、誰かが部屋の中にいることに気づいた。


「よお」


「だっ……、だっ……、だっ……、誰ですか?!」


 そこに立っていたのは、白く長い髪と髭を持つ老人だった。


「わしか? わしは『神様』じゃ」

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