16.やっぱり3人編成はキツい(6)

「――……あー、くそ。格好悪いなこれ」


 そんな冗談めかした台詞が鉄黒の遺言だった。何やかんや最後まで悪足掻きをしない姿勢はイケメンキャラクターの条件というか、特徴を踏襲している。そんな彼はやはり、紫黒や薄墨と同様に泥の塊となり、やがて消えて行った。


 ――が、のんびりとそれを観戦している暇など無い。

 まだほとんど無傷の黒檀が間を置く事無く薄群青へと襲い掛かる。仲間が死亡した事に関しては、一旦置いておくつもりのようだ。神使というのはとかく切り替えが速い。


「薄群青が! 烏羽、早く早く!」

「ええ? 人使いが荒すぎやしませんか、召喚士殿。私、今ようやく敵を一体討取ったのですが? ええ、お褒めの言葉がありませぬ」

「偉い偉い。じゃあ次、いってみよう」

「本当、貴方が召喚士ではなかったらこの場で八つ裂きにしていますよ。ええ、冗談などでは無く」


 恐ろしい一言ではあったが、全文嘘だったのでスルーした。前までだったらきっと冗談ではなかっただろうから、こういう所が懐いてきた兆候なのかもしれない。分かり辛すぎるし、嘘が見抜けない相手なら普通にバッドコミュニケーションである。


 ただしこんな和気藹々とした会話を繰り広げている間にも、事態は進行し続けている。見れば、薄群青は既に左手に持っていた脇差しの片方を弾き飛ばされ、随分と追い詰められているようだった。


「ごめん、黒檀! 紫黒がそっちに行っちゃった!」


 少しだけ聞き覚えのある声。紫黒という名前に釣られてそちらの塊を見れば、褐返と戦っていた紫黒が目にも留まらぬ速さで疾走。肩口からの鋭いタックルを、横の塊にいたはずの黒檀にお見舞いした。


「ひぇ……!!」


 小柄な紫黒が放ったフォームだけは完璧な抉るようなタックル。あまり威力は無さそうに見えたが、そこはやはり人外。

 重量級である黒檀の身体があっさりと浮き、車にでもぶつかられたかのような勢いで弾け跳ぶ。何てことだ。あんな殺人タックル、通常の人類が受けたらただでは済まない。こういう所でまざまざと人外感を見せ付けてくるのはどういう意図があると言うのか。


 一方で走り出した紫黒を追っている褐返に対し、結構離れた位置に立っていた薄群青が空になった左手の平を向けた。瞬間、半透明の空気砲のようなモノが発生。風のような速度で褐返へと飛来した。

 それを見ていたであろう褐返が、拳を振るってそれを相殺。代償としてその足を一瞬だけ止める。


「おやおや……」


 一連の流れを眺めていた烏羽が可笑しそうに意地の悪い笑みを深めたかと思うと、その長い指で黒檀の足下を指さした。途端、指し示した場所に術式が出現。黄都での紫黒を倒した水の槍が、剣山のように飛び出したかと思えば件の黒檀を串刺しにした。


「ナイス! 連携プレーとか出来たんだね、うちの子達……!」


 このゲームを始めてから、初めての連携に涙を禁じ得ない。あんなに啀み合っていたと言うのに、いざとなれば手を取り合って敵の対処に当たれるのか。よく喧嘩せずに不利な状況を覆した、と拍手喝采を送りたい気持ちで一杯だ。


「まさか、こんな結末とはな。……主には申し訳無く思う」

「主?」


 首謀者と思われる存在を匂わせた黒檀だったが、苦い顔で笑うとやはり他の黒神使と同様、泥に変わって溶け消えてしまった。

 ――ええー、重要そうだったのに。あ、でもまだ褐返がいたはず。

 そっちに詳しく聞けばいいと思って周囲を見回す。が、その褐返は跡形も無く消えていた。


「あれ!? 褐返はどこに!?」

「ごめん、主様。私が黒檀に体当たりしている間に逃げてしまったみたい」


 しゅん、と紫黒が申し訳無さそうな顔をしている。けれど彼女は薄群青を助ける為に、隣の争いに首を突っ込んだのだ。


「いや、大丈夫。薄群青が大変な事になるかもしれなかったし、褐返を捕まえるより仲間の命が大事だよ」


 ちょっと、と烏羽がプリプリと怒りながら口を挟む。碌な事を言わなさそうな気配を察知。


「私が! 神使、2人を始末したのですが!?」

「いやでも烏羽、トドメ狩りしただけじゃん……。ゲームによってはそういう立ち回りは嫌われるから、注意した方が良いよ本当」

「トドメ狩り? 何ですか、それは。ええ、どういう意味なのでしょうか」

「相手を他の仲間に弱らせて貰って、トドメだけ持って行くとかいう意味」

「失礼な! ええ、鉄黒をあそこまで衰弱させたのは私ですよ」

「それについては見てなかったから分かんないや。ごめんね」


 なおも不満があるらしく、ふて腐れた烏羽が面倒臭い事をつらつらと並べ始める。


「何故! 最初の神使たる私の働きを見ていなかったのですか? ええ、他の連中など放っておけば良かったのに」

「でも烏羽は負けないし、放置してても大丈夫じゃん。プレイヤーに出来る事は少ないけど、勝ち負けが分からない所を見ちゃうものでしょ」


 今日は珍しい事に、烏羽の驚いた尊顔をもう一度拝む事になった。が、数秒と経たずいつものドヤ顔を披露する。


「成程成程。ええ、そういう事ですか。ええ、私の強さを分かっておられた、という事ですね」

「そうそう」

「んふふふ……。ええ、ええ、そうでしょうね。当然です」


 ――ええ? 前からこんなにチョロかったっけ……。

 機嫌を直した烏羽を、花実は呆れ気味に見つめた。

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