31.新入り(2)
***
ほぼ使う機会のない大広間に移動してきた。恐らく、プレイヤーである花実がいない時にも使われていないのだろう。その場所は閑散としており、片付いてはいるが生活感は一切なかった。
が、3人の神使プラス、プレイヤーが加わると僅かに賑やかだ。とはいっても、宴会場みたいな広さなので寂しさが際立ってもいるのだけれど。
「それで、えーっと、メインストーリーの神使縛りについて? 連れて行けるって言ってたよね」
そう、と紫黒が神妙そうな顔で頷く。彼女は黒に分類される神使との事だったが、烏羽と比べて随分と取っ付きやすい。もっと言えば、あまり黒っぽくない性格のようだ。
「私、紫黒は今、黄都で主様と敵対しているから、重複して存在する事になるはず。間違っても今ここにいる私に置き換わる事はないわね」
そッスね、と薄群青が頷く。
「因みに、俺が現地で重複した場合は社にいる俺に置き換わりますね。勿論、ストーリー中に必要な記憶も持っているので、心配しないで欲しいッス。ま、そういう観点から見れば神使を沢山所持しているのも一種の強みかもしれないッスね」
まるで攻略本か何かのようなすらすらとした説明に、花実は目を丸くした。薄群青は戦闘時ではなく、社にいる時に役立つ。
「詳しいんだね。チュートリアル担当みたい」
「実質そんなもんでしょ。色んな社に初期神使として喚ばれたし、今もなお喚ばれてると思うッス。特に重複問題にブチ当たるのは薄藍とか薄桜とかですかね」
「なるほどね。え? 薄群青は良いとして、他二人は? あんまりガチャから出て来ないのかな。どっちも黒いし」
問いに対し、先に応じたのは紫黒だ。彼女は肩を竦めて首を横に振る。
「私はそこそこ他の社にも喚ばれるわ。黒ではあるけど、別に適応色とは関係無く喚ばれたりもするし……。けれど、薄群青程、プレイヤー? の知識はないかな。あ、チュートリアルはやった事がないわ。適応した色が出て来るでしょう、最初の召喚時には」
「そうなんだ。ワンチャン、私のチュートリアル担当になってたかもね」
おやおや、と何故かここで異常に勝ち誇った様子の烏羽がクツクツと嗤う。何がそんなに楽しいのだろうか。毎日がハッピーそうで何よりだ。
「それはそれは、哀れな紫黒……。ええ、召喚士殿のちゅーとりあるはそう! この私めが担当しました故! もう次はないやもしれませんねぇ、ええ。何せ、黒適応は大変貴重な人材ですから!」
「凄いね烏羽、何がどうでも滅茶苦茶な角度からマウント取ってくるじゃん。才能だよ、それもう。台詞考えた人に会ってみたいな。というか、面倒だから二度とやりたくないって言ってたよね?」
「面倒ですが、ま、多分次はないでしょう。ええ、この烏羽は高れありてぃなろいやる神使……。1回目の召喚で引き当てられる事などそうそうありますまい」
「という事は、あんまりガチャから出ないって事でしょ。ぶっちゃけこのゲームの知識が一番無いのって烏羽じゃん。ええー、私と同じくらいの知識量」
花実の言葉に対し、それが癪に障ったのか烏羽は目尻を釣り上げて不機嫌そうな表情を浮かべた。
「見くびって貰っては困りますねぇ、召喚士殿。ええ、或いは……この烏羽が最もこのしなりおについて深く知る存在かもしれませんよ? ええ、無論、大嘘かもしれませんが!」
「……」
――待って、嘘じゃないじゃん。
今かなり大事な事を口走ったのではないのか、この神使は。ネタバレは止めて頂きたい。シナリオを知っているはアウト過ぎる。
そんな事を考えてしまったせいで、妙な沈黙が大広間に満ちる。一方でこの沈黙を作り出した烏羽はと言うと、彼もまた困惑していた。冗談のつもりだったのだろうが、真偽を見分けられるので冗談にならない爆弾は止めてくれ。
「召喚士殿? 如何されました?」
「……あ、いや、何でも無いよ。それよりさ、なに、神使は別アカウントの記録とか持ってるの?」
「さあ、どうでしょうね。ええ」
「烏羽には聞いてないんだけど……。だって今まで、あんまりガチャで出て来なかったんでしょ?」
そう指摘すると、烏羽は態とらしく首を傾げて見せた。だから大男にそんな仕草をされても全く可愛くない。こちらも驚愕するくらいには可愛くないので、早くそれに気付いて欲しい。
やや逡巡して見せた薄群青がポツリと呟く。
「うーん、まあ、あると言えばあるけど……記録。そッスね、映像記録みたいなもんですね。でもそれが『薄群青』に共有されるには色んな条件があるんで、ぶっちゃけ現在進行形で起こってる事はよく分かんないッスわ」
「ええー、何その昨日。最近のAI? だとかって進化してるんだなぁ……。因みにその条件って何?」
「主サン、言っておかなきゃいけない事があるんスけど。多分、知っちゃ駄目な事とか世の中には一杯あるんで……」
言葉を濁されてしまった。しかも、やはり薄群青はいつだって安定の真実のみを語る性格である為、中途半端に終わった言葉も嘘偽りは無いようだ。
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