第6話 探索、開始。
「うっ」
適当に開けた扉の中には死体があった。
ほとんどミイラ化していて、折り重なるように積み上げられている。さっきは一人だったのに、ここはだいぶ死体が多いぞ。ミイラの中には切り傷があるものもあって、あたりには古い武具が散乱している。
何があったんだ、いったい。
魔物にでもやられたか、あるいは……。
――……《狂乱の魔王》かな。
《狂乱の魔王》。
何故その名がついたのかも忘れ去られて久しい、迷宮の奥に眠ると言われる存在のことだ。そもそもがこの迷宮からして、行方不明が多い。だから、ほとんど資料が残されていない。ただ、この迷宮に潜む主のような存在はいる、と言われている。
それは冒険者や傭兵では対処しきれず、国が動いた後でも同じだったらしい。対処しきれなかったというか、別に主が倒せないくらいだったらまだ問題ない。そもそも迷宮は危険なものだし、相手が強いほどみんな燃えるから。
ただ行方不明は多いし、ここが見つかってから解散したり諍いになったりが多くなって、冒険者どころか国中が混乱した。そんな経緯から、国が動かざるを得なかったみたいだ。
そして結局、国にも手が負えずに封印することになってしまった。
当時頻発した行方不明が、つまりこういうこと……なのかもしれないけど。となると、今回のこの出来事は《狂乱の魔王》が関係しているんだろうか。
……とはいえ、相手がまったく姿を見せないっていうのもちょっと気になるところだな。
この部屋はとにかく、何もないみたいだ。カギやそれらしいアイテムを持っていないか調べてみたけれど、残念ながらほとんど何も見つからなかった。
ただ、装備についていた印からして、この人たちは国から派遣された兵士のようだった。
……と、なると……。
ミイラの荷物の中身を改めて拝見させてもらうと、日誌が出てきた。よしよし。これでちょっとはいまここで何が起きてるかわかるかも。冒険者は持ち回り制で日誌を書くけど、兵士なら確実に何人かが書くから。
えーと。表紙には第二部隊って書いてあるな。
『✕月✕日 第一部隊は順調に進んでいるようだ。』
ふむ。どうやら、第一から第四部隊にまで分かれて、番号の若い順に出発したみたいだ。第一部隊は斥候で、主に迷宮内の情報収集。この第二部隊は、第一部隊に追随しつつ、余計な魔物の排除も請け負ってたみたいだな。ってことは、後の三、四部隊が本隊か。
……うーん。あんまり役に立ちそうなことは書いてない。最初のほうは結構しっかり書いてあるけど、そこは僕らも通った道なんだよな。
後ろのほうはどうかな。
『✕月✕日 アントルジュがとうとう仲間を集めて決起した。自分も誘われたが、曖昧に返事をした。ここはみんなで協力してリーダーに従うほうがいい。最近のアントルジュはリーダーを年下だからと馬鹿にしている。頭の悪い働き者ほど厄介なものはない……』
……第二部隊の中でちょっとした小競り合いが起きてたみたいだな。リーダー派とそれ以外派に別れて意見が対立したようだ。そもそも、兵士の日誌ってこんなに個人的なこと書かないだろ。よっぱど腹に据えかねてたんだな。
この前あたりから、諍いや小競り合いが多くなってきたって書いてあるな。それが爆発したのがこの出来事ってことか……。
……。
いやちょっと待て。小競り合いで死亡って、だいぶやばいけど喧嘩で死んだってこと!?
というか、この死体って魔物とかにやられたわけじゃなくて、もしかして自分たちの小競り合いが殺し合いに発展したってことか!?
マジで何があったんだよ、これ……。
いやもう、この惨状を見ればわかるけれど。
ってか全然この迷宮に関してわかんないし!
ともかく、これ以上はあんまり役立ちそうなことは書いてないな。
ここは一旦離れて、別の部屋に行ってみるか。
とにかく部屋を出て、再び歩き出す。
さっきのでだいぶ気が滅入ってやる気が消失したけど、とりあえず下手に留まってもなにがあるのかわからないのが迷宮だ。正直、僕は回復術師だし。……せめてフラヴェラが戻ってきてくれないかな……。
そうして相変わらずこそこそと廊下を進み、広間を突っ切り、その辺にあった部屋をそっと開ける。ここも何も無いかな、と思いかけたそのとき、ちょっとした違和感に気が付いた。
この部屋の床は、他と違うのだ。
ちょっと他より段差がある。こんなところ、はじめて見たぞ。何かあるのかもしれない。
「ん?」
掲げた光石に照らされ、地面でなにかがきらりと光った。
見逃してしまいそうなほどだったが、僕がなんとなく光石を近づけると、やっぱり見間違いじゃなかった。
「これ……」
ただ何か落ちているだけかと思ったけれど、それは地面の土の中から直接出ていた。引っ張ってみたけれど、まったく動かない。
黒い破片。それはひとつではなくて、あちこちから飛び出している。
どこかで見たことがある。というより、ばらばらにはなっているものの、忘れるはずがない。
この黒い鎧の欠片は、見覚えのあるものだった。
――これ、ジョヴィオの鎧じゃないか……?
ジョヴィオがドラゴンの鎧を作ったのは……確か、はじめてドラゴン討伐の依頼を受けた後だった。持ち帰ってきた黒い鱗を皆で工房に持ち込んで、敢闘賞と銘打ってドラゴンの鎧をみんなでジョヴィオにプレゼントしたんだっけ。
……忘れる、はずが、ない。
――ジョヴィオはこの部屋に来ていたのか?
なんでそんなものが、落ちているでもなくどうして床の中に突き刺さってるんだ?
しかもこれ、突き刺さっているというより、一緒に埋まってるといったほうがいい。僕は少し戸惑った。誰かに確認を取りたかった。考えたくなかった。そんな最悪の状況に、耐えきれない。
「……フラヴェラ」
僕は真っ青になりながら、彼女の名前を呼んだ。
彼女が危ないかもしれない。
「フラヴェラ! どこにいるんだ!」
叫んだが、答えが返ることはなかった。
まだ、このときは。
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