第130話 光の樹

天変地異という言葉ですら物足りなくなる程の攻撃が終わった後、焦土と化した大地には俺だけしか残っていなかった。



「あ、危なかった……!」


もし咄嗟にシールドの隙間に魔法で水を流し込んでいなければ、透過した光で跡形もなく蒸発していたかもしれない。

一手のミスが命取りになる恐ろしさを感じ、背筋にゾクゾクとした感覚が走る。



「後手に回ったら駄目だ……! 今度はこっちから仕掛けてやる! 《爆炎機雷インプロージョン・マイン》!!!」


刻印から引き出した大量の魔力を使い、爆炎を閉じ込めた“機雷”を10発、20発と連射しながら空中に敷き詰めるように設置していく。



「――さあ、これならどうだ!? 動けるものなら動いてみろ!」


光の絨毯爆撃を耐えただけでなく、自らのテリトリーに機雷を撒かれたことで、白龍はより一層怒りに満ちた魔力波動を全身から放出する。


――にも拘らず空中で動かないのは、機雷に込められた魔力量とその威力を理解しているのだろう。

ならば、こちらがやることは一つだ……!


すぐさま機雷の一つに火球の魔法を飛ばして爆発させると、凄まじい爆炎が周囲を飲み込み、瞬く間に誘爆して空は炎と爆風で覆われていった。


湧き上がる煙の中から翼と尾を失った白龍が飛び出し、そのまま垂直に落下して地面へと激突する。



「――今だっ!!!」


脚に力を込めて一気に白龍へと突進し、時空間魔法でとどめを刺そうと構えるが、10m程の距離に近づいた所で異変に気付く。



慌てて止まろうとするが、目の前には先ほどまで確かに全身を損傷した状態だったはずの白龍が翼を広げ、仁王立ちで待ち構えていた。


「こいつ、この短時間で回復したのか!? くそっ――!」



苦し紛れに展開したシールドはいとも簡単に叩き割られ、鋼のようにしなる尾が脇腹に直撃――凄まじい勢いで吹き飛ばされてしまう。


意識こそ失わなかったものの、軋んで砕ける肋骨、ひしゃげて潰れる肉の感触、上下左右もわからない位に目まぐるしく回転する景色――その全ての情報が一遍に脳に叩き込まれていった。



100m位飛ばされただろうか……

全身を駆け巡る猛烈な痛みで体が強張り、呼吸をしたくてもほとんど息が吸うことができない。大声を出しながらのたうち回りたくても眼球ひとつ動かせないような状態だ。――が、まだ生きているのは確からしい。


とにかく回復しなくては……!

全身に回復魔法を掛けながら存在感知で白龍の位置を探ると、ゆっくりとこちらに歩いてきている所だった。


まるで勝ち誇る様に一歩一歩近づいて来る白龍は、俺の頭のすぐ上まで来ると顔を覗き込むような形でこちらの様子を眺める。



白龍がほんの少しつま先をずらせば、容易く俺の頭は潰されてしまうだろう。

目の前に迫った死の気配を全身で感じつつも、動かない体とは裏腹に思考は加速していく――



ずっと違和感があった。


俺は、龍族がただの魔物ではないことを知っている。

始祖によって崇高な使命を与えられた大陸の守護者なのだ。


この白龍にしても、繰り出す技の一つ一つのレベルを考えれば高位の龍族だと判断して問題ないだろう。それが“ケダモノ”のように言葉も解さず暴れているということは、やはり帝国によって操られていると考えるのが自然だ。


あれだけ物理的な刺激を与えても正気に戻らないとなれば、もはや今できるのは“これ”しかない……!


伝心魔法プロジェクション


――心の中で静かに詠唱し、龍族の始祖の言葉、黒龍や赤龍王とのやり取り……思いつく限りの記憶を魔法に乗せてぶつけると、白龍は明らかに動揺したように首を左右に大きく振りながら後ずさっていくではないか。



ここだ、ここしかない……!


右手に意識をやると、その手からしっかりと黒龍のナイフの感触が感じられる。

すぐさま刻印から魔力を引き出しつつ、ナイフを経由して時空間属性の魔力を大量に作り出す。


この期に及んで出し惜しみはしない……!

アイラ、力を貸してくれ――


左手にはめた二つの指輪から光属性の魔力を全て取り出し、目の前に展開した魔法陣に二種類の魔力をありったけ込める。


断界ダーク・リフト》!!!


天へ突き刺さるような、稲光を思わせる一筋の“光のヒビ”が白龍の胸を貫き、瞬く間に枝を張り巡らせるかの如くヒビが枝分かれしていく。


“光の樹”は次第にその姿を漆黒の虚空をはらんだ時空の裂け目へと変貌させていき、

白龍の首から上だけを残して空間の彼方へ消え去っていった。



――光の枝が身体を貫いた時、白龍は抵抗しなかったように見えた。

今となっては分からないが、最期の瞬間は龍族としての矜持を取り戻したのかもしれない。


「はあっ、はあっ……! 勝ったぞアイラ! ぎりぎりだった……本当に……!」



まともに発声ができない程に体はボロボロだったが、束の間の勝利の余韻を味わっていると、ふいに頭の中に声が響いてくる。

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