第102話 邂逅②

俺の強さを感じ取っているということは、恐らく感知系のスキルか……?

正直、だいぶ時間が経っているのでアレナリア城で鑑定した竜胆の鑑定結果はあまり覚えていないな……


わずかでも違和感を気取られないよう、静かに〈鑑定〉を発動し、竜胆の能力を改めて確認する。


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 リンドウ=アヤセ

 職業:魔導士

 スキル:魔力強化(大)、魔力感知、魔導補助(極)

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――さすがに召喚勇者といえどもスキルが変化したりはしないか。


この〈魔導補助(極)〉というスキルは是非とも手に入れておきたいが、大きな反動があった場合のリスクを考えると、今すぐ〈検索〉をするのはマズいか……?


いや、竜胆に俺を害するつもりがないことは分かった。

やるなら今しかない……!


そのまま〈検索〉を掛けると、目の前にチカチカと星が飛び散ったような感覚と共に、ズキンと響く痛みが頭蓋骨の中を駆け回る――


足の踏ん張りが効かなくなってその場で片膝を突くと、竜胆が駆け寄って身体を支えてくれた。


「だ、大丈夫ですか悠賀さん! どこか具合が悪いんですか――?」


「ああ、いや……大丈夫だ。その……大迷宮で瘴気を大量に浴びてから、たまに頭痛があるんだ。すぐに治まるから問題ない」


――少し苦しい言い訳だったか……?

だが、これで召喚勇者のスキルを手に入れることができた。

通常の魔導補助スキルでさえ絶大な効果を発揮するんだ……このスキルは一体どれだけの力を発揮するんだろうか。



「そう……なんですね。信征さんの光属性魔法なら治療できるかもしれませんが、私では無理そうです……すみません」


「気にしないでくれ、もう大丈夫だ。――それにしても、大迷宮で鍛えた俺はともかく、竜胆こそ最初に会った頃と別人じゃないか! 相当な鍛錬を積まなければ“そう”はならないはずだ」


実際、スキルは変わっていなかったが立ち振る舞いといい、先ほどの追跡時の身のこなしといい、明らかに居酒屋でバイトをしていた頃とは別人だった。


俺としては成長を褒めたつもりだったが、その言葉を聞いた竜胆は、途端に瞳に宿った光を陰らせ重苦しい雰囲気をまとい始める。



「“そう”ならざるを得なかったんです……何度も、何度も侵攻してくる魔族に対抗するためには、強くなるしか……!」


「例の魔族との戦争で――実戦で鍛えられたってことか……今の竜胆の様子を見る限り、だいぶ辛い状況にあるみたいだな。他の皆もそうなのか?」


「4人とも身体は無事ですよ。――でも、戦争に明け暮れる日々で皆の心は疲弊しきっています。 特に信征さんは魔族といえど相手の命を奪うことに強い抵抗があるようで、かなり葛藤している様子です……」



「――あいつは、中学の頃からずっと医者を目指していたんだ。いくら戦争とはいえ“人殺し”をするなんて耐えられないんだろうな……あの男は、国王は召喚勇者たちを戦争の道具にしているのか?」



「いいえ、アレナリア王国の状況を考えれば仕方のないことなんです……今は魔族が主な相手ですが、帝国と戦争になれば今度は人を殺すことになるでしょうね。――より効率よく、短期間に大人数を殲滅できる攻撃……そんな技術ばかり磨いています。この力を人間に向ける瞬間を考えると、胸が締め付けられるような気分です……」



さらっと帝国との戦争の話が出てきたが、やはりアレナリア側もその前提で動いているのか……勇者たちが大量破壊兵器のような扱いを受けているのは気分の悪い話だ。

もし俺が刻印を持っていなければ、今頃同じ目に遭っていたと考えると恐ろしくなる。


それにしても何だろう、この違和感は――

竜胆の話し方は、まるで人間でなければ抵抗なく殺せると言っているように聞こえたのだ。


俺が魔族に会ったこともなければ戦争に身を置いたこともないからだろうか――何となく“認識のズレ”のようなものが生じているような気がする。


以前ルイーナさんは魔族といえど“人”であると言っていた。

魔族にしろ獣人にしろ、種族で一括りにして憎しみの矛先にする構図が腑に落ちない。――もちろん、非がないのに一方的に差別の対象になっている獣人たちとは同列に語れないだろうが……


信征もきっと俺と同じことを考えて葛藤しているのかもしれない。幸司や真はどうなんだろうか……

戦争に身を置き、人を殺す経験をした勇者たちとの間に“心の溝”のようなものができてしまったような気がしてならない。


俺は、あいつらと会って昔みたいに笑えるんだろうか――?

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