第96話 相乗魔法
アイラに合流すると、丁度こちらも休憩に入っていたようで、木陰で心地良い風を浴びながら休んでいるところだった。
「どうだ、順調にいってるかい?」
「ああ、相乗魔法というのは凄いぞ! 目から鱗が落ちた気分だ……!」
「アイラがそこまで言うってことは相当なんだな! ――早速俺も試してみよう」
まずは通常時とどれ位差が出るか確かめるため、右手に集めた魔力に火属性を付与し、左手には通常の魔力を集中する。
同じ量の魔力を込めた時にどれくらい威力が変わるのか――
《
「ユウガの魔力量で試すと圧巻だな……! 同属性の魔力を込めて発動すると、ここまで威力が変わるとは思っていなかった。――ちなみに、光属性を混ぜるともっと面白いことが起きるぞ!」
「光属性か……せっかく溜めた魔力を使うのは少し気が引けるけど、練習だしケチらずやるか!」
今度は指輪から取り出した光属性の魔力を左手に、右手に通常の魔力を集めていく。
左右それぞれの魔力を《
まるで、昔マグネシウムの燃焼実験で見た炎のように、白い鮮烈な光を放つ火球だ。
威力も桁違いのようで、先ほどの相乗魔法では溶けていなかった岩石がドロドロに溶けてしまっているではないか。
「さっき自分でもやってみたが、やはり火属性魔法の場合は見た目はもちろん、炎自体が超高温になるようだな……」
「とんでもない代物だ……!こんな魔法をそこらで使ったら大騒ぎになるんじゃないか?――他の属性は試してみたかい?」
「ああ、風属性に光属性を載せると速度と威力が爆発的に上昇するぞ! ふふ……きっとユウガが使ったら災害級の威力になるかもしれないな」
「災害級って、嵐や台風じゃないんだからさ……まあ威力は知っておくに越したことはないから、さっきと同じ魔力量でとりあえずやってみよう」
早速先ほどと同じ要領で風と光の相乗魔法を使って《
――美しい光の粒子を纏った淡い緑の風が凄まじい速度で発射され、ゴロゴロと転がっている無数の大岩を次々に両断し、斜面に当たって地面に大きく深い裂け目を作ってしまった。
「さすがユウガだ。初級魔法であんな大岩を音もなく――まるで果物でも斬るようにスパッと真っ二つにしてしまうとは……もし上級や超級の広域魔法で相乗魔法を使ったら、それこそ災害クラスだ……」
「上級や超級魔法か――俺が使えるのは爆炎魔法と時空間魔法だけど、そもそも二つの属性を合わせている爆炎魔法だと、光属性を入れたら3属性を同時に込めるってことだよな……?そんなことできるんだろうか……」
「確かに……理論上はできるだろうが、制御が難しそうだな。まだ光属性の魔力は残っているか?」
「いや、残念だが初級魔法を一回分くらいしか残ってない……時空間魔法の方もどうなるか気になるところだなあ」
「時空間魔法の方は専門外だからよく分からないが――確か、師匠は時空間魔法は属性付与できないから、複合魔法は存在しないと言っていたような……?」
「なるほどなあ、確かに時空間属性を帯びた魔力なんて想像が――」
俺とアイラは同時に同じこと考えたのだろう、二人で思わず顔を見合わせる。
「もしかしてアレならいけるんじゃないか!?」
「ああ、私もそう思っていたところだ! 試してみる価値はある!」
早速、先ほどまで使っていた黒龍のナイフを取り出し、魔力を込めて覚醒させる。
色が変化したブレードは、深く濃い紫色の魔力をほとばしらせていた。
「もしこれが時空間属性を帯びた魔力だったら、これを術式に込めれば威力が上がるはずだ!――どうなるか分からないからアイラは少し下がっていてくれ」
アイラが数歩下がったのを確認し、10m程離れた場所にある大きな岩に狙いを定め、ナイフを介して紫色の魔力を術式に込める。
「《
吸い込まれた魔力で魔法陣が光り、同時に目標の大岩に大きな次元の裂け目を叩きこむ――
出来上がった裂け目を中心に空間に小さな黒いヒビが走っていき、岩はバキバキと音を立てて左右に割れていった。
「さすがに龍族には通用しないかもしれないけど、威力は十分だな!――比較的少ない魔力で済むから発動時間も短縮できるし、ナイフを構えたまま魔法を撃てるから近接への対応も隙がなくなるのはありがたい」
「時空間魔法は魔力を大量に使うだろうし、相乗魔法が使えるのは大きいな!折角だから光属性との併用でどうなるか試してみたらどうだ?」
「そうだな、この際とことん試してみようか!」
そう言って早速、指輪を使って光属性の魔力を溜める作業を始める。
一度に作れる量は僅かなため、2時間くらい掛けてせっせと光属性の魔力を溜めていき、日が傾き始めた頃になってやっと十分な量を確保することができた。
「――大分時間が掛かってしまったが、これで何とかいけそうだ!」
「試し撃ちの対象はあれなんかどうだ? まるで地龍のような重量感だぞ!」
アイラが指さした先には縦横10mほどの巨大な岩があった。
ゴツゴツとした表面は、以前倒した古龍の鱗によく似ている――
「あの大きさなら申し分ないな! 果たしてどれくらいの威力になるか、見ものだな」
少し緊張しながら、右手のナイフに時空間属性の魔力を、左手の指輪から光属性の魔力を放出して魔法陣に込める。
――魔法が発動した直後、岩の真上から地面に向かってカミナリが落ちたかのような太い“光のヒビ”が貫き、一瞬でそこから木が枝を伸ばすかのようにヒビが枝分かれしていく。
あっという間に巨大岩が光の枝に覆われていく様子に驚く間もなく、次の瞬間にはその光を押し広げるようにヒビの内側から漆黒の時空の裂け目が顔を出し、空間を黒いヒビが包んでいった。
ヒビが内部を縦横無尽に走り回った巨大な岩は、数瞬の間をおいてガラガラと崩れ去り、あっけに取られている俺たちの周囲は静寂に包まれる。
「な……何だかヤバい威力だったな……!」
光属性の相乗魔法恐るべし……こんな魔法、生物に使ったら“とんでもないこと”になるぞ?
「もはや言葉も出ない……ユウガ、この魔法も人前で使うのは禁止だな」
「ああ、これを使う日が来ないことを祈ろう……もう暗くなってきたし、今日はこれまでにして引き上げようか」
無事に?黒龍ナイフと相乗魔法の試運転を終え、急いでブランカ村へ戻る二人であった。
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