なんとなく魔王復活・2
「『魔王の谷』で隠し通路……?」
冒険者の集う宿『サラマンダー』の一階食堂。
パスタを食っていた俺は、眼前にバンッと突きつけられたチラシを見て、そう言った。
「そう! とうとう見つかったのよ!
レイン、どう? テンション上がるでしょ? ものすごい儲け話よ!」
チラシを掲げて、目をきらきら輝かせながら説明するこの女、名前はサラという。
精霊と人間のハーフで、とんでもない美人だが、見た目にだまされてはならない。
お宝とスリルが大好きで、手斧を武器にして暴れ回る、恐るべき女戦士なのだから。
そして彼女は、俺とともに冒険する、『パーティ』の仲間でもあるのだ。
「魔物がこっそりお宝を捧げに来てたみたいで、財宝ザクザクらしいわよ。私達も早く行かないと無くなっちゃうわ!」
サラは平然とそう言い放ち、しつこくチラシをヒラヒラさせる。
質の悪い紙で出来たチラシに印刷されているのは、『魔王の谷』への地図と、『冒険者募集!』というフレーズ。
『魔王の谷』とは、はるか昔に魔王が封印された場所である。
といっても魔王は色んな時代に色んな場所にいるため、けっこうたくさんいる。
そのため、『魔王の谷』は世界中いたるところにあったりする。
『魔王の谷』には、部下の魔物たちが捧げものを持ち込む事があるため、大変危険である分、冒険者からの人気も高いダンジョンなのだ。
俺たちが暮らすこの町『フェス』は、たくさんの冒険者が拠点としている、通称『冒険者の町』だ。
フェスの町近くにも『魔王の谷』はあるが、魔王封印の伝承が残るだけで、実際に魔王は見つかっていなかった。
そこにこのニュースである。フェスからそこまで遠くないから、きっと既に大量の冒険者が亡霊のようにうようよしているに違いない。
「どうせ今頃、冒険者で芋洗うみたいな大混雑じゃないのか……?」
「それが、かなり手強いらしいのよ。発見された通路の先がとっても広くて複雑、とんでもない迷宮になってるらしいの!」
サラは俺に顔を寄せて来て、その辺の押し売りより強気で宣伝してくる。
「リスクは高いけど、いっぱいお宝眠ってるわよ! 私達も行くしかないわよ!」
「まあ、行くだけ行ってみるか……。観光だな、観光」
「じゃあ決定! 今回は場所が場所だし、パーティで行きましょう!」
サラの言葉に頷く。
俺たちは普段、四人の冒険者チーム、ようするにパーティを組んで冒険に出かけているのだ。
「カルストとニコを呼んでこなきゃな。ニコはともかくカルストはまたどこにいるのか……」
「あ、二人とももう声かけてOKもらってきたから」
「俺には事後承諾かよ!」
「絶対のってきてくれると思ってたもの。さあ行くわよ魔王の谷! 一稼ぎしてやるわ!」
という訳で。
サラの強引な一言によって、俺達の今回の冒険は始まった。
◆
冒険者たちは、町にある冒険者ギルドで仕事を見つけたり、自分たちでダンジョンに冒険に行って稼いでいる。
魔物が出た時の討伐とかダンジョンのお宝探索、危険地域を通る人々の護衛とかそういうのが冒険者ギルドの仕事だ。
今日、『魔王の谷』に向かうのはいつもの四人パーティ。
普通の魔法使いの俺、レインと、女戦士のサラ。そして残りのメンバーもフェスの街に住んでいて、普通は別々に暮らしているが、いざ仕事が入ると皆で出発する。
さて、俺たちパーティは、町の近くから出発するダンジョン行き馬車に乗ったのだが。
『魔王の谷』行きの馬車は満員御礼、重装備の冒険者達がみっしり詰まっていた。
今回の事で一番儲かっているのは馬車運行会社じゃないかと思ってしまう光景。
「あの、レインさん……僕は今回の目的地をまだよく知らないんですけど……」
俺の横で、パーティの仲間であるニコが話しかけてきた。
彼の本名はニコライ。本職は聖職者で、研究所で魔法の研究も行っている頭脳派だ。
見た目は普通の少年で、俺達よりずっと若く見える。
だが彼はエルフ族で長命なので、本当の年齢は俺達を上回っていたりする。
「馬車に乗ってから聞こえてくる話だと、何だか非常に怖いところみたいですが……ほ、本当に行くんですか……?」
ニコは小柄な身体を更に小さくして、ものすごく不安そうな顔でそう言った。
「実は俺もサラに勢いで押し切られたから詳しく知らないんだよな……」
「それじゃ、私が知ってる事を教えてあげましょう!」
俺達の後ろからにゅっと顔を出してきたサラは、待ってましたとばかりに話し出す。
「今回発見された隠し通路の先は、デーモンやスケルトンといった凶悪なモンスターがうようよしているらしいわ!
あとトラップも山のようにあって、魔物とトラップの二重攻撃にほとんどの冒険者はやられるみたいよ!
それに、魔王の封印の強度がまだ確認されていないから、魔王の復活にいつうっかり出くわすかっていうハラハラも味わえる!
まさに冒険者の血を騒がせる最高のダンジョンね!」
「"ちゃんと情報収集しました"みたいな顔するな! 先に言え!」
「か、かかか帰りましょうよぉ、絶対死にますよそんなとこぉ!」
ニコが既に半泣きになって俺にすがりついてくる。俺だってそこまでだとは聞いていなかったぞ。冒険の準備に忙しくて、情報収集をサラ任せにしていたのが全ての元凶だ。
「大丈夫よ、私達なら心配無いわ! ね、カルスト?」
「ああ。大丈夫だろう」
サラの呼びかけに短く返すのは、暑苦しい黒一色の服を着込んだ男、カルスト。
カルストは一応、暗殺者だ。しかしまだ一度もそういう仕事を成功させられていない。だから暗殺者はあくまで仮で、今のところただの盗賊とかと同じような仕事をしている。
トラップ解除術や素早い身のこなしなど、持っているスキルは多く、中でもナイフの腕は見事で、もうなんかそっち専門でやっていけばいいのにと俺は思うんだが、本人二はその気は無いらしい。
「……って、"だろう"? なんか微妙ににごしてない?」
「何事も時の運。上手く行かない時はその時。皆で死ねば怖くない」
「暗殺者の言う台詞じゃねえよなそれ」
「嫌だーー! 僕は死にたくないんですー! 安全に冒険したいんです!」
「それもだいぶ無茶な事言ってるからな?」
冒険者たちを乗せた馬車は、不安の渦巻く中、『魔王の谷』へと向かっていく。
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