第4話 意外な一面

俺の入部歓迎会が始まり、20分程経った。現在はジュースやスナック菓子を堪能しつつ雑談中。


「ねぇねぇ、キティって何組?」


「3組だけど……」


「あ、ほんとに?オレ2組だから、教室隣やんけ〜!」


「俺、お前のこと何回か見たぞ。食堂で特大かき揚げそば食ってたろ」


「マジか!ちょっとうれぴよ」


「お前、結構目立つからな」


部員の中でも、アリシアは俺に対してかなり友好的だ。新入部員の俺にも、先程から積極的に話しかけてくれる。


「てゆーか、さっきから言ってる『キティ』って何?」


「え、北王子の北から取ってキティ。変?」


「いや、まあ、うん。ちょっと」


「うぇ〜!良いと思ったんだけどなぁ」


「別に悪いとは言ってない!好きに呼んでくれ」


このように、少し独特の口調と性格だ。男女分け隔てなく話しているようだし、逆にこういう所が彼女の長所なんだろう。


「なんだ、てっきりダメって言われるかと思ったぞ〜」


そして、めちゃめちゃ可愛い!ベリキュー!


「そういやさ、キティって乙ゲープレイするの?」


「んーにゃ全然。少女漫画すら読まん」


「じゃあ何故入ろうと思ったのだ?部員が女子しか居ないのを良いことに、ハーレムを作ろうとしてるのかね?」


「ちげーよ!なんか、灰花さんが大変そうだったから……それに仮、仮入部だし」


「ふっう〜ん。そかそか、しょんの事気になるんだね」


「なっ、別にそんなんじゃ……」


アリシアはニマニマと俺を見つめる。まあ確かに、下心がゼロかと言われれば嘘になるが……。だって学校一のマドンナにお願いされちゃあしょうがないでしょ。断った奴の気が知れない。


「でもそうなると、キティには一回乙ゲーをプレイしてもらった方が良いかもな。キティ。好きなジャンルとか、いつもこんなの見てるよ〜ってやつとか、ある?」


「う〜ん……バトル漫画とかはよく読むかな。どうせなら戦闘シーンあった方が、テンション上がるし?」


「オーキードーキーサーイェッサー!カモン、スノホワ!」


「?どうしたの、アリシアちゃん」


(スノホワて……)


どうやらアリシアは、独特のニックネームを付けるのが好きらしい。さっきのしょん、というのも灰花さんのことだろう。硝子の「硝」から取ったのか。


「彼に、バトル要素の入った乙ゲーをお見舞いしてやりなさい」


「バトル要素かぁ……乙女ゲームってほとんどがノベルゲームだから、うちにあるかどうか……」


「まさかの白雪セレクト?!」


「うん、スノホワちゃんはうちで一番乙ゲーに詳しいんだ」


意外や意外。白雪がそんなに乙ゲーにのめり込んでいたとは……長年近くにいても、知らないことって結構あるもんだ。


「一番って程でもないよ。硝子ちゃんとか杏先輩の方が全然……」


「ご謙遜を〜。これでもオレは、スノホワちゃんのこと頼りにしてるんだぜ?」


「そ、そんな……ありがとう。よし、廉人君に合いそうな乙女ゲーム、探してみるね!」


白雪は意気込んだ様子で本棚を漁り始める。

でも、そうだよな。仮とはいえ俺も部員。少しは乙ゲーに触れておかないと。一応モデルになるわけだし。二次元の超ド級イケメン達のモデルを俺なんかがやるのは、ファンに申し訳ない気がする。怒られそう……。


「えっと……これなんかどうかな?」


「思ったより早ぇ!」


白雪が持ってきたのは、白い校舎をバックに六人のイケメン達が一人の美少女を取り囲んだパッケージのゲーム。


「あー!アカデミー・エデンだ!懐かし!」


「アカデミー・エデンっつうのか、これ。どーゆう話なんだ?」


「主人公は騎士の家系に生まれた一人娘って設定で、女の子ってだけで周りから偏見を押し付けられながら生きてきたんだ。そんな人達を見返すため、彼女は騎士の養成学校に入学するんだけど、そこで出会う美少年達との日々を描いた物語って感じかな。乙女ゲームには珍しい戦える女主人公と、バトル要素もあって凄く面白いんだよ!」


正直、このパッケージを見る限りではあまり面白くなさそう……というか全く触れてこなかったジャンルだから、ちょっと抵抗がある。


(いや、食わず嫌いは良くないぞ!俺!……でもなぁ。こういうゲームの、俺の女になれ!みたいなセリフは結構苦手)


「まー最初は慣れないかもだけどさ、ちょっちゅプレイしてみてよ。キティもきっとハマるぜ〜?」


「これ、パソコンでプレイ出来るやつだっけ?」


「あーどうだっけな〜。いばらパイセ〜ン……はそこで寝てるか。きゃみお〜!」


「ひっ!」


アリシアが狼尾さんに声をかけると、怯えた声が返ってくる。先程からゲーミングチェアこ上で蹲り、フードをすっぽりと被った姿は、ちょっと怪しい。


「これってパソコン用ソフトだっけ」


「……テレビ用、です。コントローラー……必要……」


「おー、さんきゅ〜な〜。えっとじゃあコントローラーはっと……」


「アリシアちゃん。これキャラクターによって難易度変わるから、攻略本あったほうがいいかも」


「オーキードーキーサーイェッサー!」


二人は本棚を物色し始める。この本棚、乙ゲー関連のものは何でも置いてあるのか。てかオーキードーキーサーイェッサーって何?!


「……そういや、さっきから灰花さんの姿が見えないな。どこ行っちゃったんだろ」


「あー……硝子ちゃんは多分……」


「また"いつもの"でしょぉ?」


毛布がモゾモゾと動き、茨先輩が顔を出す。


「あ、いばら先輩起きた」


「いつものって一体……まあいいや。俺、トイレ行ってくるんで、ついでにちょっと探してきますね」


「あ〜助かる。こうなるとキリ無いからね〜」


……よく分からないが、とりあえず俺の膀胱が悲鳴をあげ始めているのでトイレにダッシュ!






「ふぇ〜間一髪」


さっきジュース飲みすぎたせいか、いきなり尿意が押し寄せて、どうなる事かと思った。まあでも、トイレには間に合ったことだし。


「灰花さん探しといくか……ん?あれは」


トイレの向かいの教室に、灰花さんの姿が。電話片手に、何やら話し込んでいる。


「え、何?コスメも?うん、うん……チークと、ファンデと、香水?ねえなんか今日多くない?てか、なんでいつも私に頼むの!いや自分で買うのとか普通だから。今年で何歳だと思ってんの?!」


なんか、怒ってらっしゃる……?

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