story 2 -snowman dance-
冬のとある並木道、私は秋まで紅と黄の入り交じった道々を感慨深く、それまた綺麗な雪道に変わっていた。そう感じた。
こういう日常の一風景に目の高揚感を浴びつつ空の冷めた虚空を見つめるしか無かった。それまた私はこのちょっとした風景に溶け込めている事に気がつき、なんだか気分は悪くなかった。
疲れ目を癒やす目的で外へ赴いたが、目的が散歩自体になってしまった。
冬枯れの街路樹と落ち葉が少々見え隠れするくらいの雪の乗り具合、それはまさに綺麗だったと言うしかない。
先週まで紅葉の季節を楽しんだばかりで、これまた雪化粧の済んだこの通りを見るには忍びなかった。
連続的な町模様の移り変わり様は私を退屈させず、頭を軽く苛ませた。
この前、写真に納めた美麗さのある秋の紅葉と、今現在の通りや街並みをスナップする。
そんな感じの一日のはじまりだった。
歩む足取りは軽いが重みのある足運びが必要だった。小気味良い音を立てて前へと目に映る光景を捉えながら進む。
そうして私はふと目をあちこちへと配らせていると、不思議な者と出会った。
声を掛けるのも、やぶさかだったが、ただ通り過ごすのもまた寂しい者に見えるかもしれない。
雪を見て、雪だるまでも一人で作ろうとしているのか、一握り一握りずつ雪をかき集めている。
恐らく大学生であろう、その深しげな動きのするよく解らないこの子は、いわゆる寂しげな私には不可解に見えた。
彼女は一人でも孤独を感じず雪を無心でかき集めていた。それは何となくも私には理解できそうでも無かった。
天候は一般的に生きて生活している人たちや働いている人たちにとって、この昼には恵まれないだろうが、この子と私は恵まれいそうだ。
今にも雨か雪が降ってきそうだ。
雪について私は子供の頃調べた自由研究について思い出した。
誰しもが知っているあの雪の結晶。幾何学的にて、フルクタルな構造。万華鏡からそのまま取ってきたような様子。
あれは天の神様の作った、何かの贈り物に違いない。そんな子供の頃、調べてまとめた一説を私はふと思い出した。
また、ここの雪はそんな形ができるほど、冷たくはなく、水気もこもっていた。ただ雪だるまを作る分にはいいだろう。
そんな素材選びのような私の雪への考えもまたいい。
雪が降る分にはいいが、どうかまた雪が降って欲しい。彼女の足運びも段々とおぼつかなくなり、急に突飛な行動へと出た。
バタンと急に雪をベットとするように寝転がった。もちろん彼女に雪が付き、来ている厚手のしゃれた落ち着いた色のコートに砂糖菓子でも作っていたかのようなその姿は健気であった。それでいて笑っている。
少々難のありそうな子ではあるが話しかけてみたくはあった。
歩幅を上げて近づいてみた。彼女の健やかな笑顔をその場で見たく思わずの事ではあった。
そうしてこちらも穏やかな気持ちでいると目があった。
その笑顔はまたたく間に私と目が合うと、ハッと驚いた顔つきになり、急いで子供染みた姿を元に戻すようにした。そこでまた急いで立ち上がろうとしたが、雪にそこそこ深く沈んでいるためか、上手くすぐには立ち上がれず見栄えするような転び方をした。
苦笑しながらため息をついて私は手を差し伸べた。愛らしいその素振りを見せたその子は恥ずかしげながら私の手を取ってくれた。
「ぶしつけに物を言うけれど、どこかた来たんだい?。」
そんな私をそのあどけなさと体に雪が程よく付いた少し気の抜けた愛らしさを中和した何かを感じさせながら。
「そ、空から降ってきました。」
そう彼女は半分真剣に応えた。
どうしたものかと私は再び苦笑して。
「そうか、空から降りてきたのか。それは今日はついていない。」
彼女は文字通り空から降りてきたようにふんわりとした顔つきで。
「そうなんです、ですが今日は悪天候でありながら、これを作る分には良い天気なんです。」
脳天気にあるのも、ある程度の気分転換にはなっていいかもな。そう感じた。
そうして指さした先にあるそのいびつな形をした、よく褒めて前衛芸術の佳作としてでも言えるのではないかと感じた。
雪だるまを見て物憂げに首を傾げながら私はこう言った。
「駄目ではないが、この雪だるまは何故、こうなんだい。」
こう何か首を傾けている、おかし気な顔つきをした雪だるまを指してこう言った。
そして首を一緒に傾けて見てみる。
「この雪だるまは斜に構えている、私なんだ。それを美化してみたの、この有り余る雪で。」
斜に構えていると言えばそうかもしれないが、このあっけらかんとしたこのまっすぐに育ってきたようなこの子の何処から、自分自身から斜に構えているという一性格を自身で感じたのかふと疑問に思った。
事実、素直に私の質問には答えているではないか。
「斜に構えているような自分が捉えているようだけれども、それは間違いかもしれない」
彼女は不思議そうな眼つきをしながら大きな瞳を開け閉めさせて小首を子鹿のように捻る。
「その間違いを指摘するのは間違いであって、実は間違いでは無いの。」
この彼女にどう、やましい心が控えているのかは甚だ疑問ではあるが、会って数分だ。私が持った疑問をこの少しの時間で解消してしまうのも、また勿体の無い事かもしれない。そうして彼女は寂しそうに下を眺めつつ、目線をしたからハッと上げて思いついた。
「そうだ、ちょっと話を聞いて。」
いきなりの満面の笑みでそれは唐突にも過ぎて私は面食らってしまった。
「話ならここで今聞いてるじゃないか。」
「落ち着いた所でなら話せるの。喫茶店やファーストフード店で話したい。」
唐突にいわゆる逆に口説かれてしまうのかと思ったが、彼女の面に私が笑うような邪さは無く真剣であったが、そこが私の壺にはまって、含み笑いをしながら。
「コーヒーを飲みになら連れて行ってあげようか、飲めるかい?。」
そうして彼女は柔らかそうな頬を膨らませて、怒るかと思えば、急に誰しもが愛らしく見える先ほどの笑顔とは違い、怒気の籠もった笑顔でこう言う。
「一番高いのでお願いします。そう言わないと失礼ですから」
また今度は可憐に伏し目がちにして、私を軽く甘く見た。おごりをねだるには良しとする顔つきに他は無い。
「堅苦しくない、誰にでも入れるところにしよう。」
あの大手チェーン店くらいにしとくか。
安く付けた値段は帰ってくるぞと自身満々の顔をして彼女は私をやぶにらみして、そこから遠のこうとすれば、快くついてきれくれた。
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