サイコパス、異世界にて混沌を撒き散らす

双頭蛇

プロローグ

とある大国、この日、その国の人々を震撼させたサイコパスが、人知れずに牢獄の中で亡くなった。

死体が発見された翌日、このニュースは、瞬く間に世界中で大々的に発表された。彼は、それほどの事件(偉業)を成したのである。

そして、時はそのサイコパスが亡くなった、まさにその瞬間に遡る。

「……ここは?……ふむ、私は死んだのか。死後の世界はこんなに味気ないのか?」

老人は、暗闇の中で漂いながら目を開け、周りを見ながら声を出し、死ぬ前より話せる事で、ある程度を理解して口にする。 思った事をたまに口にしてしまうのは、彼の悪癖の1つだ。

(ようこそ。私の存在を認識出来ますか?)

「……神、とでも言うつもりかね?」

何やら頭に響くように、男とも、女とも、老人とも、子供とも分からない声が聞こえ。彼は、眉間に皺を寄せて相手に質問をする。

(えぇ、そうです。しかし、私は貴女の世界の神ではありません。異世界というのを貴方はご存知ですか?)

「知らないが……ふん、そこか」

自称神は、静に彼に話しかけるだけだが、相手を誰かは全く理解していなかった。だからこそ、隙が生まれた。老人は気配をずっと探っており、自称神の居場所を突き止め、慣れた手つきで自称神の両目を潰した。

(っ!?ぐっ……な、何、を?)

「気配があり、居場所が分かり、こうして触れる。ならば、ここは私の狩り場だ」

(たかが人間風情に私を殺せるとでっ!?)

「うるさい口だな。いや、口で話しているかは知らないが……試してみるか?」

そこから、自称神の地獄が始まった。何故ならば、両目が有ったであろう場所に、彼の指は入ったままなのだ。彼は目玉を取り出す感覚を久しぶりに味わい、更に、抉り、本当に老人で、本当にさっき、衰弱死した人物かと疑うレベルで自称神を痛めつけていく。自称神の、悲鳴やら止めてと懇願する声は、彼にとっては、料理を際立てるスパイスでしかない。 そして、自称神のある一言で、この残虐な暴力はようやく止まった。

(じ、ぬ゛……ごの゛、ま゛まじゃ……わ゛だじが……じぬ゛)

「……なんだ、情けない。神ならば死なないんじゃないのか?」

(で、を……はな゛じで……)

「……嫌だね。そして……サヨナラだ」

止まったのは僅かだった。そして、彼に慈悲という言葉は、最初から最後までなかった。何故、彼が手を止めたのか、それは命乞いを聞くためだけである。

そして、主を失ったからなのか、突然、空間が崩壊を始め、意識が朦朧としてきた。

「次の……狩り場は楽しめるかな?」

彼は自然と、そう口にしていた。そして、それに応える者は居た。

(いやはや、まさか神を殺すとは恐ろしい。まぁ、奴は我々邪神のなかでも低級な方さ)

彼が、意識を保って聞けたのはここまでだった。だが、突然現れた存在はお構い無しに話を続ける。

(君のその力を持って、世界に混沌と混乱をばら撒きたまえ。我々はそれで奴等に対抗出来る。おっと、でもやり過ぎはダメだよ?やり過ぎたら我々も困るからね。我々邪神から、異界に降り立つ君にささやかなプレゼントを。ってもう聴こえてないかな?……まぁ、良いや。この世界を、面白おかしく混沌にしてくれるなら大歓迎だよ)



「あぅあ……(眩しい……)」

彼は再び目覚めた。しかし、そこは見知らぬどこかの天井。そして、視界に入る木の柵。見知らぬ言語で話す人々……そして、赤子の手にしか見えない自身の手。

「あらあら、起きたのね?お母さんですよ」

「あぅ……(なるほど……)」

母親と思われる女性に抱き上げられ、あやされる。いや、泣いてないのだからあやす意味無くないか?ん?……あぁ、あやすと見せかけてこちらの状況確認か。

しかし……何やらどこぞの富豪よろしくメイドが居るが、あれか?独占欲が強いのかね?普通は母親本人ではなく、赤子の世話は乳母やメイドの仕事だろうに……まぁ、まだ大人しくしていよう。決行は……今いる街の把握と自由に動けるようになってから。それまでは、せいぜい今を楽しめば良いさ。血の繋がった赤の他人さん達。

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