第43話 引っ越し前夜

   そうして、マダガスカルを出発する2日前に、引っ越し作業が始まった。意外

  と荷物は多い。楽器やらパソコンその他周辺機器やら、衣装・小道具まで様々。

  ここから動画配信をしていたので、それなりに物が必要だったのである。アフリ

  カに来てから買い求めた物も多少あり、来る時よりも荷物が増えている。

光輝:「ああ、これじゃ入らないよー。」

瑠偉:「あははは、光輝くん、それ無理だよー!」

光輝:「どうしよう。他に鞄ない?」

大樹:「これ、俺のものじゃないぞ。誰のだ?」

涼:「あ、それ俺の俺の!うそ、それ入らないよ・・・。」

  バタバタである。

光輝:「うわっ。」

流星:「おっと。光輝、大丈夫か?」

  光輝が高い所の物を取ろうとし、よろけた所を流星が抱き留めた。

光輝:「ありがと。あっ、流星くん・・・。」

  抱き留めてくれたのが流星だと分かって、光輝はカッと顔が熱くなった。そし

  て、思わず流星の腕を振り払ってしまった。

流星:「あ、ごめん。」

  流星はそう言うと、すぐに立ち去った。

光輝:「あ・・・・流星くんが謝ることないのに。」

  光輝は独り言を言った。親切にしてくれたのに、自分は何てことをしたのだ、と

  自己嫌悪に陥った。


   何とか荷物も片付き、明日の朝に出発を控えた前の晩、光輝は瑠偉の部屋を訪

  れた。

光輝:「瑠偉、ちょっと話してもいい?」

瑠偉:「いいよ。どうしたの?」

  光輝は瑠偉の部屋に入り、ベッドに並んで腰かけた。

光輝:「瑠偉はさ、流星くんの事、どう思う?」

瑠偉:「流星くんの事?そりゃあ、頭が良くて優しくて、好きだよ。」

光輝:「そうだろうね。それって、碧央の事を好きなのとは、違う好きなの?」

瑠偉:「え!?どどどど、どういうこと?」

光輝:「隠さなくてもいいよ。キスしているとこ見ちゃったんだからな。」

瑠偉:「あ・・・あの時、やっぱり見てたんだ・・・。」

  瑠偉は両手で顔を覆った。

光輝:「恥ずかしがるなよ。ねえ、碧央の事を好きなのは、他の人の好きとはどう違

  うの?」

瑠偉:「それは・・・。碧央くんの事を考えたり、碧央くんが近くに来たりすると、

  胸の辺りがこう、ぎゅっとなるんだ。胸が震えるっていうか、キュンってするっ

  ていうか。」

光輝:「そうなんだ。そうか。」

瑠偉:「もしかして・・・光輝くん、流星くんの事が好きになったの?」

光輝:「あ、いや、その・・・分からないんだ。篤くんが変な事言うからさ、変に意

  識しちゃっているだけかもしれないし。」

瑠偉:「変な事って?」

光輝:「流星くんが、僕の事を好き、だとか何とか。」

瑠偉:「ああ、それはそうだね。」

光輝:「やっぱり?」

瑠偉:「光輝くん、最近まで気づいてなかったの?」

光輝:「うん、全然。言われるまで全く意識してなかったよ。」

瑠偉:「そっか。でも、光輝くんは篤くんの事が好きなんじゃないの?」

光輝:「え!?」

瑠偉:「気づくよ。」

光輝:「そっかぁ、そうだよね。でも、篤くんは瑠偉のことが好きだから。」

瑠偉:「えっ・・・うそ!」

光輝:「気づいてなかったの?それこそ信じらんないよ。まあ、そういう事なんだよ

  ね。自分の事は気づきにくい。ああ、篤くんの事は大丈夫だよ。碧央と瑠偉がキ

  スしてるとこ、篤くんも見たからね。」

瑠偉:「そう・・・なんだ。」

  安心していいのか、どうなのか、瑠偉は複雑な気分だった。

瑠偉:「それで?光輝くんは誰の事が好きなの?篤くん?それとも流星くん?」

光輝:「それが分かんないから相談しに来たんだよ。篤くんはイケメンだし、甘えた

  いって思うけど、瑠偉の言う、キュンっていうのは別にないような気がするし。

  流星くんは、特別好きとか思ってなかったけど、最近、近づくとドキドキしちゃ

  うんだ。でも、それは変に意識しているからだって思っていたんだ。でも、今の

  瑠偉の話を聞いたら、このドキドキがつまりは・・・。」

瑠偉:「流星くんを好きになっちゃったのかもしれない?」

光輝:「どうなんだろう?ああ、瑠偉、分からないよー。」

  光輝は混乱し、瑠偉の事を抱きしめた。瑠偉は光輝の背中を優しく撫でた。その

  時、ドアが突然開いた。

碧央:「あ?お前ら、何やってんだよ!」

瑠偉:「あー、碧央くん誤解だよ!」

  あわや、碧央が光輝に掴みかからんとした時、

流星:「どうしたんだ?」

  部屋の入口に流星が現れた。中を覗いた流星は、光輝が瑠偉に抱きしめられてい

  るのを見た。そして、固まっている。

瑠偉:「流星くん、誤解しないで!」

  お騒がせな光輝は、浮かぬ顔のまま、のっそりと立ち上がると、静かに部屋に戻

  って行った。流星とすれ違う時、ちらっと眼を見交わしたが、言葉は交わさなか

  った。


   翌朝、いよいよ出発という時、内海が記念写真を撮ろうと言ってスマホを構え

  た。

内海:「はい、集まってー。」

  メンバー7人は、前に3人が屈み、後ろに4人が立って並んだ。

内海:「はい、撮るよー。セイチーズ!」

  アイドルである7人は、それぞれいい顔でニッコリ。後ろに立っていた光輝は、

  目の前のメンバーの首に腕を絡めた。光輝が誰にでもよくやるポーズである。写

  真を撮り終えた時、その腕を絡めた相手を改めて見た光輝は、胸がドキンとし

  た。流星だったのだ。

流星:「ん?光輝、どうした?」

  後ろで固まっていた光輝に、流星が振り返ってそう声をかけた。

光輝:「あ、うううん、何でもない。」

  光輝がぎこちなく動き出そうとした時、流星が光輝の腕を掴んだ。

流星:「光輝、もしかして、俺の事避けてる?」

光輝:「え?そ、そんな事ないよ。」

流星:「そうか?もしかして、俺の事が・・・迷惑なのか?」

  みんなが出発しようとドタバタしている中で、2人だけが止まっていた。少しの

  間、2人は見つめ合った。

光輝:「迷惑なんて、全然違うよ。」

  光輝が首を振りながら言った。

流星:「じゃあ、なんで?最近の光輝、おかしいよ。俺が近づくと逃げていくじゃな

  いか。」

光輝:「そんな、そんな事ないよ。」

流星:「あるよ。俺の事、嫌いなのか?」

光輝:「嫌いじゃないよ!流星くんの事は好きだよ。」

流星:「え・・・本当に?」

光輝:「うん。だから、その。」

内海:「おーい、お前たち行くぞー!」

  玄関の所で、内海が流星と光輝の方へ声をかけた。

流星:「はーい。」

  流星は光輝の腕を放した。この家ともお別れだ。メンバーやスタッフは、玄関を

  出て、改めて家を振り返り、感慨に耽ったのであった。

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