第41話 星空の下で
碧央:「瑠偉、ちょっと外出て見ろよ!」
瑠偉:「え?何?」
寝る前に、玄関のところから碧央が瑠偉を呼んだ。玄関を入るとロビーが天井ま
での吹き抜けになっていて、そこから2階にある各自の部屋のドアが見える。瑠
偉が部屋から顔を出すと、碧央が玄関を出て行ったので、瑠偉は追いかけた。
瑠偉が外に出てみると、家から少し離れたところに碧央が立っていた。
瑠偉:「碧央くん、どうしたの?」
碧央:「空、見て見ろよ。」
碧央が空を見上げていたので、瑠偉も改めて空を見る。
瑠偉「わあ、すごい!」
満点の星空だった。
碧央:「無人島で人質になった時も、こんな空だったな。」
碧央が静かに言った。
瑠偉:「うん。あの時、俺たちは初めて・・・。」
2人はお互いの顔を見た。そして、何も言わずに顔を近づけ、口づけを交わし
た。
光輝は、瑠偉が外に出るのを見かけて、何かあるのかと後を追いかけた。玄関
を開けると、ちょうど碧央と瑠偉が顔を近づけるところだった。
光輝:「あ・・・。」
2人に声をかけようとした光輝は、すんでのところで取りやめた。
篤:「光輝、どうした?」
いきなりすぐ後ろから篤が声をかけて来たので、光輝は飛び上がった。
光輝:「わっ、びっくりした。あ、篤くん。」
篤:「何してんだ?」
光輝:「え?い、いや、その、星が綺麗だなぁって。」
篤:「ん?ああ、本当だ。外に出てみようぜ。」
光輝:「うん、ああ、こっちを見ようよ。こっちこっち!」
光輝は、瑠偉たちがいる方ではない方角の方へ篤を引っ張って行った。
篤:「なんでこっちなの?」
光輝:「いつも見てる方角じゃなくて、こっちの星座にも興味があるんだよ。こっち
は北だっけ?」
篤:「そっか、見える星が日本とは違うんだよな?日本では、北の空は決まってカシ
オペア座とおおぐま座だけど、ここではどうなんだろう?見てみようぜ!」
篤が乗って来たので、光輝はほっとした。そして、しばらく2人で星を眺めてい
た。
篤:「こんなに星があったんじゃ、どれがどの星座かなんて、分からないな。」
篤はそう言って笑った。
光輝:「うん。」
篤:「どうした?元気ない?」
光輝:「うううん、そんな事ないよ。・・・篤くんはさ、瑠偉の事が好き?」
篤:「え?なんだよ、急に。」
篤は笑った。
光輝:「なんで瑠偉が好きなの?可愛いから?」
篤:「うーん。瑠偉はさ、顔は可愛いけど、芯が強いって言うか、凛としているって
いうのかな。常にかっこいいよな。俺なんかとは違って、若い頃から苦労してい
るからなのかな。ほら、俺は大学生になるまで親元でぬくぬくと育ってきたけ
ど、瑠偉は高校1年の頃から親元離れて、俺たちと仕事しているんだもんな。」
光輝:「そうだね・・・でも、瑠偉は碧央の事が好きだよ。」
光輝がそう言うと、篤はふふふっと笑った。
光輝:「なんで笑うの?」
篤:「いや。まあ、さっきまでは半信半疑というか、友情の可能性半分だと思ってい
たけどなあ。」
光輝:「あ・・・見てたんだ。」
さっきの、碧央と瑠偉のキスシーン。
光輝:「諦めるの?」
篤:「んー、どうかな。最初から望みなんてほとんどなかったし。あのかっこいい瑠
偉がさ、俺に時々甘えて来るのがたまんないんだよな。でもさあ、俺は碧央より
も、流星の方に嫉妬してたんだぜ。」
光輝:「え?流星くんに?」
篤:「そう。瑠偉は、碧央とは仲良しだけどさ、流星の事はすごく尊敬している感じ
じゃん?分からない事はいつでも流星に聞きに行くしさ。あの立ち位置に俺がな
りたいって思ってたんだよ。」
光輝:「へえ。瑠偉はいいなあ、みんなにモテて。」
篤:「光輝だってモテてるじゃん。流星はお前にぞっこんだろ。」
光輝:「は?」
篤:「は?って・・・え?うそ、気づいてないのか?あんなに分かり安いのに?」
光輝:「え、え?」
篤:「ほら、無人島で人質になった時だってさ、お前が司令官に呼び出された時、流
星が俺も行く、光輝だけでは行かせないって必死だったじゃん。」
光輝:「だって、あれは僕が英語しゃべれなくて困ると思って、流星くんがついて来
てくれたんでしょ?」
篤:「そうだけど、あの必死さは、ただの親切心ではないだろ?」
篤はそう言って、優しく光輝を見た。
光輝:「流星くんが・・・?嘘でしょ・・・。」
碧央と瑠偉が口づけを交わすと、人の声がした。一気にロマンティックな気分
から現実に引き戻される。
瑠偉:「うわ、光輝くんと篤くんだ。見られたかな?」
碧央:「何も言って来ないし、大丈夫じゃないか?」
2人はコソコソと話して、後ろを伺った。篤と光輝は2人で向こうの方へ行って
しまった。
瑠偉:「ねえ碧央くん。あの時、俺が碧央くんの為なら死ねるって思ったっていう話
をしたじゃない?」
碧央:「ああ、俺がうちに来るかって言った時に?」
瑠偉:「そう。そしたら碧央くんが、それは下心があったからって言ってたでし
ょ?」
碧央:「よく覚えているな。」
碧央はそう言って、あははははと笑った。
瑠偉:「ということはさ、俺が高1の時既に、その・・・俺の事・・・。」
歯切れの悪い瑠偉。いつから好きだったの?なんていうのは、恋人同士がつき合
い始めると必ずする会話だが、それが瑠偉には気恥ずかしいものだった。
碧央は、ニヤっとすると、腰に手を当て、再び空を見上げた。
碧央:「初めて瑠偉に会った時の事、今でもよく覚えているよ。お前はまだ子供で、
小さいくせに、やたらと目つきがこう、熱いって言うか、まっすぐに見て来るっ
て言うか。こいつカッコイイなぁって思ってさ。でもお前、あんまりしゃべんな
いし、何とか仲良くなりたいなぁって思っていたんだよ。下心って言うのは、そ
ういう意味だよ。」
瑠偉:「なーんだ、そっか。仲良くなりたいって言う意味か。はは。」
碧央:「あの時は、な。でも、一緒に暮らしているうちに・・・お前は大きくなっ
て、子供じゃなくなって・・・。お前はどうなんだよ?」
瑠偉:「え?何が?」
碧央:「とぼけるな。」
瑠偉はそう言われて、ちょっと首を竦めた。そして、瑠偉も腰に手を当て、空を
見上げた。
瑠偉:「奇遇だね。俺も碧央くんと初めて会った時の事、よく覚えているよ。ああ、
こんなイケメン、本当にいるんだなぁって見とれたよ。一目惚れ。さっき、俺の
目つきがどうって言ってたけど、それはもう、羨望の眼差しってやつだよ。憧れ
を通り越して好きですーっていう目線。」
瑠偉はそう言って、ふふふっと笑った。
碧央:「そっか。俺は初対面で堕とされたのか。」
瑠偉:「堕とせたなんて、ずーっと思ってなかったけどね。」
碧央:「そんで、好きな人、ああ、俺の事ね。好きな人から、俺んちに来るかと言わ
れて、死ねると思ったくらいに感動したわけだ。」
瑠偉:「そういうコト。一緒に帰れるのが嬉しかったなあ。そんで、碧央くんのお兄
さんが帰省している間は、同じベッドに寝かせてもらってさ。」
碧央:「ああ、窮屈だったな。」
瑠偉:「いやいや、毎日ドキドキしちゃって。時々、碧央くんの腕とか足が俺の上に
乗っかってくるともう。」
碧央:「もう、何?」
瑠偉:「ズキューンって来ちゃって。」
碧央:「ズキューン?ここに?」
碧央が瑠偉の胸の辺りを指さすと、
瑠偉:「もっと下の方。」
碧央:「え?下の方?」
碧央は指を下へずらしていき、へその辺りで止めた。
瑠偉:「もうちょっと下。」
碧央:「は?・・・お前は、ガキのくせにー!」
碧央はそう言うと、ぺんと瑠偉の頭を叩いた。
瑠偉:「今はもうガキじゃないよー。」
碧央:「お前はまだガキだ!」
瑠偉が頭を押さえたので、碧央は今度は瑠偉のお腹にパンチを食らわせた。
瑠偉:「うっ、ちょっと、なんで殴るのー?」
碧央がまだこぶしを握って殴りかかって来るので、瑠偉は逃げた。
碧央:「待て、こら!あははは。」
碧央は笑いながら追いかける。
瑠偉:「あははは、なんで殴るんだよー。」
瑠偉は逃げ回る。それを碧央が追いかけ回す。2人は笑いながら、走り回った。
篤:「何やってんだ?あの2人。」
光輝:「ガキだねえ。」
家に戻ろうと、篤と光輝が歩いて来た。
光輝:「夜中に外で騒いでも、近所迷惑にはならないんだねえ。ところ変われば、価
値観も常識も変わるんだねえ。」
光輝がしみじみと言った。周りに他人の家がないのだ。
篤:「そうだな。当たり前だと思っていたことも、狭い範囲での常識だったりするん
だよな。俺たちはワールドワイドに生きないとな。」
光輝:「そうだね。だからって、日本に帰ってからも夜中に外で騒いだりしちゃ、ダ
メだけどねえ。あははは。」
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