第37話 碧央の気になる事
光輝は誰に対しても、接触多めである。だから、光輝が瑠偉にくっついていて
も、碧央は気にしない。チラっと見るけれど、気にしていない、つもりである。
他のメンバーも、ふとした時に瑠偉の肩に腕を回したりするけれど、それも友情
だから、気にしない碧央である。その、つもりである。だが、気になる事が2つ
ある。
篤:「瑠偉、これ見てくれよ。」
篤に呼ばれて、瑠偉が篤の傍に行くと、篤は瑠偉の腕を引っ張って、自分の隣に
座らせた。
瑠偉:「何?」
篤:「これ、どう思う?俺が描いたデザイン。」
瑠偉:「うーん、かっこいいけど、もうちょっと色を加えた方がいいんじゃない?」
篤:「例えば何色とか?」
そう言いながら、篤は瑠偉の肩に腕を回す。あー、顔が近い近い・・・と碧央は
チラチラと目だけでそちらを見ながら、気が気ではない。
瑠偉は真剣にデザイン画を見て、考えているのだが、篤は瑠偉の顔ばかり見て
いて、真面目にやっているようには見えない。碧央の気になる事その1は、篤が
明らかに瑠偉を狙っているという事である。
瑠偉:「赤かな。いや、紫かな。篤くんの好きな方でいいと思うよ。」
篤:「さっすが瑠偉。サンキュ。」
篤はそう言うと、瑠偉のほっぺにチュッとした。
瑠偉:「え?ちょっと、篤くん!」
瑠偉が笑いながら篤から離れようとするのだが、篤が腕を放さない。
瑠偉が碧央をチラっと見る。碧央は黙っているが、歯を食いしばっているの
か、こめかみに青筋を立てている。お互いの想いを確認し合う前は、こういう時
でも碧央は何ともない顔をしていたはずだった。だって、瑠偉は碧央が自分の事
を好きだとは思えずにいたのだから。それなのに、今は割と分かり安く怒ってい
る。瑠偉は思わずにニヤけた。
瑠偉が碧央をチラっと見た時、光輝の姿が目に入った。
瑠偉:「え?」
思わずそう言ってしまった。光輝が、とても悲しそうな顔をしてこちらを静かに
見ていたから。
瑠偉:「光輝くん?」
光輝:「え?何?」
その瞬間、光輝はいつものにこやかな表情に戻っていた。篤が光輝の顔を見た
時、腕が緩んだので、瑠偉は抜け出した。
アメリカから戻ったSTEは、数か月後にリリース予定のアルバム作りをしてい
た。海外遠征の後は、少し体を休ませるため、遠出の予定は立てない。そういう
時にアルバム作成をするのが常だった。
瑠偉:「ねえ、流星くん。」
瑠偉が、小型のノートパソコンを持って、流星のところへ行った。
流星:「ん?どうした?」
瑠偉:「ここの所の英語、おかしくないかな?」
瑠偉は作詞をしている最中だった。自分が書いた詩を流星に見せている。
流星:「うん。いいんじゃないか?っていうか、かっこいいじゃん。瑠偉、作詞の腕
上げたな。」
流星が、瑠偉の顔を見て笑った。瑠偉は、ぱあっと表情を明るくした。だが、何
も言わずにまた自分の座っていた場所に戻る。
碧央はこの様子を見て、内心穏やかではない。瑠偉は高校受験の時に、流星か
ら勉強を教えてもらって以来、何かと流星を頼りにしている。高校生時代にも、
よく流星に英語を教えてもらっていたし、海外でのテレビ出演の時など、流星の
傍にいれば安心だとばかりに、いつも流星にべったりくっついている。
いや、碧央だって、英語で困ったことがあれば流星に聞くのだし、それは構わ
ないのだ。ただ、瑠偉が流星を見る目が、どうも他のメンバーとは違う気がして
ならない。それは、「尊敬」なのだろうが、それでも「目がハート」だという事
には変わりない。これが、気になる事その2である。
流星:「瑠偉は何でも出来るなぁ。ダンスも歌も上手いし、絵も上手いし、それで作
詞作曲も出来るなんて、不公平だなあ。その上顔もいいし。」
瑠偉:「流星くんだって、英語ペラペラだし、頭いいし、背も高いし、絵も上手いじ
ゃん。」
ああ、瑠偉が「顔もいい」と言わなくてよかった、と碧央は思った。それを取ら
れたら自分の取り得が無くなる。と、自信喪失気味である。
碧央は立って、瑠偉の所へ行った。こういう時は、こうするのが一番。と、座
っている瑠偉を後ろからハグする。
瑠偉:「ん?碧央くん、どうしたの?」
ハグした瞬間、ビクッとした瑠偉は、それが碧央だと分かるとふわっと笑った。
碧央:「ううん、何でもない。ただ・・・こうしたくなっただけ。」
瑠偉はふふふと笑って、碧央の腕をポンポンと叩いた。そして、パソコンのキー
ボードをカタカタと打つ。その文字を見たら、
「仕事中だぞ。ドキドキして集中できないだろ。」
と、書いてあった。
碧央は、ふっと笑って頭を瑠偉の頭にコツンとつけ、腕を放した。そして、瑠
偉のパソコンのキーボードに、
「ごめん。俺もドキドキしちゃったよ。」
と打ってから、自分の場所へ戻っていった。瑠偉はそれを横目で見て、ふふっと
笑った。そして、他のメンバーに見られないうちにと、急いで文字を消した。
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