第32話 大作戦

   碧央の足もだいぶ良くなってきて、松葉杖なしで歩けるようになった。なるべ

  く避けて来た、歌番組への出演も、そろそろ出てもいいだろうという事になっ 

  た。

   STEタワーから小型のバスに乗って出かける。そのバスに乗り込む際、光輝は

  さっと碧央の隣に陣取り、最後に瑠偉が乗って来た時、

光輝;「瑠偉、ここにおいでよ。」

  と言って、碧央と自分の間を空けた。瑠偉は「え?」という顔をして碧央と光輝

  の顔を見比べたが、

光輝:「早く、早く。」

  と、急かされたので、大人しくそこに座った。

   道を曲がる時、光輝が異常なほど瑠偉の方に寄りかかってくるので、瑠偉は頑

  張って碧央に寄りかからないようにしていたが、とうとうくっついてしまった。

   テレビ局に到着し、みんなでバラバラと歩いてく時、足が痛い碧央は遅れがち

  だった。瑠偉はいつもみんなの後からついて行くので、碧央の隣を歩いていた。

  すると、涼が後ろに下がって来て、

涼:「碧央、大丈夫か?」

  などと話しかけて来た。そして、瑠偉にも何かしら話しかけてきて、碧央の事を

  瑠偉の方へぐいぐい押す。碧央は、歩きながらだんだん瑠偉と体がくっついてい

  き、ついによろけて瑠偉の方へ体を預ける形になってしまった。

瑠偉:「碧央くん、大丈夫?」

  瑠偉は碧央を抱き留めた。

碧央:「ああ、平気。涼くん、押してるよ。」

涼:「あー、ごめんごめん。」

  涼はそう言って、ポンと碧央の肩を叩いた。

   スタジオで、出番以外の時に座っている時にも、瑠偉は端っこに座ろうとして

  いるのに、流星に呼ばれて、碧央と流星の間に座らされた。そして、何かという

  と流星が瑠偉の肩をポンと押し、瑠偉の肩は碧央の肩にぶつかる。そうかと思え

  ば、碧央の向こう側に座っている大樹が、

大樹:「あーあ。」

  などと言って伸びをして、碧央を瑠偉の方へ押しやる。

   極めつけは、番組が終わって楽屋に戻って来た時の事。瑠偉が先に楽屋に入

  り、その後から碧央が入って行くと、碧央の後ろから篤が、

篤:「瑠偉!」

  と声をかけた。瑠偉が振り返ると、篤は碧央の背中をどんと押し、

碧央:「わあ!」

  碧央は瑠偉に思いっきり抱きつく事になってしまった。メンバーは見て見ぬふ

  り。

碧央:「ちょ、篤くーん。」

篤:「ああ、ごめんごめん。」

  篤はそう言うと、すまして着替えに取り掛かった。碧央と瑠偉の2人は、顔を見

  合わせて首を傾げた。


   そういった事が、その日から続いた。やたらと、碧央と瑠偉をくっつけたがる

  メンバー。流石に碧央と瑠偉にもわざとやっているという事が分かった。

瑠偉:「ねえ、碧央くん。みんな、どうしたんだろう。俺たちが付き合っているのを

  表に出すと、雰囲気悪くなるから、出さない方がいいって言われたんだよね?」

碧央:「うん・・・。だけど、どう考えても、みんな俺たちを仲良くさせようとして

  いるよな?なんでだろう。」

瑠偉:「本当に、俺たちの事、バレてるの?勘違いじゃない?」

碧央:「あれ?何て言われたんだっけなぁ・・・みんな、俺の気持ちは分かってるっ

  て言ってたような・・・。そうだ、瑠偉の気持ちは確認したのか、とか。」

瑠偉:「分かってるって?どう分かってるんだろう。もしかしたら、違うんじゃな

  い?」

碧央:「そうかも。いや、そうだよな。じゃなかったら、俺たちを仲良くさせような

  んて、するわけないもんな。」

瑠偉:「じゃあ、バレてないんだ?あははは、おかしいね。あははは。」

碧央:「あはは、そうだな。あはははは。」

瑠偉:「それじゃあ、みんなの思い通りに、仲良くしてあげよっか?」

碧央:「我慢する必要ないって事じゃん。あははは、おかしい。」

  しばらく2人は笑い合った。そして、何もコソコソする必要はない、という結論

  に至った。


   翌朝、一番遅く起きて来た瑠偉は、リビングに入ってくると、

瑠偉:「碧央くん、おはよう!」

  そう言って、ソファに座っている碧央に後ろから抱きついた。

碧央:「瑠偉、おはよう。」

  碧央は穏やかに笑い、手のひらで瑠偉の顎をなでなでした。仲の良い振りは、カ

  メラの前ではずっとしてきた事なので、慣れっこである。ここ最近はしていなか

  ったけれど。

碧央:「あ、光輝、こぼしてる!」

光輝:「え?あ!」

  メンバー全員が、碧央と瑠偉に目が釘付けだった。光輝はコップにミルクを注い

  でいる最中だったので、2人に見とれたまま、ミルクがコップから溢れていたの

  である。

瑠偉:「あーあ、大丈夫?」

  瑠偉が駆けつけて、台拭きでミルクを拭いた。

光輝:「ご、ごめん。」

  光輝はまだ放心状態のようである。瑠偉は自分もコップにミルクを注ぎ、それを

  持って碧央の隣に座った。

瑠偉:「碧央くん、今日は足の具合、どう?」

碧央:「ああ、悪くないよ。」

  そんな事を言いながら、最近の2人とは全然違った距離感を出していた。


   碧央と瑠偉が出て行ってから、まだ5人はそこから動けずにいた。

流星:「ま、まあ、良かったよな。俺たちの作戦が功を奏したのかな。」

光輝:「ほんと、良かったねえ。2人は仲良しに戻ったんだよ。」

大樹:「昨日、話し合ったのかな。」

篤:「俺のお陰だな。2人をバッチリハグさせたから。」

光輝:「うんうん、そうだよね。」

  光輝は篤に抱きついた。

光輝:「篤くん、お手柄!」

  褒められても、篤の表情は複雑である。

篤:「本当に、あの2人は仲がいいんだよなぁ。」

  入り込める気がしない・・・心の声が、みんなにも聞こえたようだった。

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