第30話 いつもの匂わせが
時は流れ、コンサートツアーがいよいよ目前に迫り、会場でのリハーサルが始
まった。碧央はステージ上に座っている事になったが、袖に引っ込む時にどうす
るかというのが悩みどころだった。
碧央:「引っ込む時は、片足ケンケンで行くよ。」
瑠偉:「ダメだよ、それだと振動で傷が痛むでしょ?早く治すためにも、無理は禁物
だよ。」
光輝:「いっそ、最初からずっと車椅子に乗っているっていうのはどう?そうした
ら、誰かがさーっと押して素早く袖に引っ込めるじゃない?」
碧央:「いや、それだと、いかにも怪我人っぽくて、フェローに心配をかけるよ。」
瑠偉:「はい。俺が、碧央くんを抱えて運びます。」
瑠偉が手を上げて、そう発言した。
涼:「いやいや、ただでさえコンサートは体力消耗するのに、それはやめた方がいい
でしょう。」
瑠偉:「どうって事ないよ。やってみようか?」
瑠偉はそう言うと、椅子に座っている碧央を横抱きにひょいっと持ち上げた。
メンバー:「わーぉ。」
あまりに軽々と持ち上げたので、一同びっくりである。
瑠偉:「軽い軽い。ね?これでこうやってさーっと。」
瑠偉は実際に、袖に向かって小走りに移動した。そして、またステージ上のみん
なの所に戻って来た。
瑠偉:「ほらね。」
碧央を椅子に戻し、どや顔をした。
流星:「まあ、それが一番早いけど・・・。」
流星はそこまで言って、みんなを見渡した。
大樹:「じゃあさ、碧央が引っ込む回数を最小限にしよう。それで、引っ込む時は瑠
偉が運ぶと。」
結局、そういう事になった。また、碧央と瑠偉以外のメンバーは、瑠偉が碧央に
気を遣っている、と言い合ったのだった。
そして、コンサートが始まった。碧央がダンスをしない事を除いては、いつも
通りのSTEのコンサートが出来た。外見上は。だが、これが大きく違う、という
事が実はあったのだ。
1日目を終えて帰宅した彼らは、また、碧央と瑠偉が去ってから、顔を突き合
わせて小声で話し合った。
光輝:「ねえねえ、今日のあの2人、いつもの匂わせがなかったよ!」
涼:「いつも、必ず1ステージに1つはキスの真似があったし、5回はいちゃつく場
面があるのに!」
大樹:「今日はゼロ・・・。」
篤:「瑠偉が碧央を抱っこして移動した時には、そうとう会場が湧いたけどな。」
光輝:「でも、いつもなら、ああいう時は更に調子に乗って何かやるじゃん。」
流星:「だよな。キスの真似が出ると思ったら、何もせずにさーっと真面目に引っ込
んでたもんな。」
涼:「おかしいよ、絶対。俺は確信したね。あの2人には、何かわだかまりがあ
る。」
流星:「わだかまりか・・・。あれかな、碧央の心の中で、どうしても自分を置いて
逃げて行った瑠偉の事が許せない、とか。」
大樹:「きっとそうだ。頭では仕方なかったと分かっていても、心の中で何かがわだ
かまっているんだ。」
光輝:「どうしたらいいんだろう。このままでいいの?」
篤:「時が解決するんじゃないか?」
涼:「でもさ、瑠偉が可哀そうだよ。あれだけ一生懸命に世話を焼いているって事は
さ、許してもらいたいんでしょうよ。切実に。」
光輝:「そうだよね、瑠偉、可哀そう。」
流星:「よし、俺たちで何とかするか。」
光輝:「何とかって?」
大樹:「何か作戦を立てよう。2人が仲良くなれるような、作戦を。」
果たして、どんな作戦が飛び出して来るのだろうか。そんな話が進んでいる事な
どつゆ知らず、碧央と瑠偉は、またもや2人でこっそりイチャイチャしているの
であった。
つまり、フェローサービスにかこつけてボディタッチなどをする必要が無くな
ったから、しなくなっただけなのである。また、下手に人前で接触多めにする
と、自分たちの関係がバレてしまうような気がして、出来ないと言った方がいい
かもしれない。
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