第28話 ギクシャク?

 碧央:「先生、いつ踊れるようになりますか?」

  碧央はすぐに手術を受けた。撃たれたのは右のふくらはぎ。幸い弾は貫通してお

  り、足の切断は免れた。手術が終わると、碧央はすぐにこう口にした。

医師:「うーん、そうだねえ。3ヵ月後かな。」

碧央:「3カ月か・・・。」

  STEの予定はびっしりある。マレーシアのコンサートはもう中止になってしまっ

  たが、テレビ出演や次のチャリティーコンサートなど、仕事は次々にやってく

  る。

医師:「ああ、踊れるって言っても、普通に踊るレベルだよ。つまり、軽く走った

  り、ジャンプしたりすることが出来るようになるのが3ヵ月後。君たちのいつも

  のダンスが踊れるようになるのは・・・6ヵ月後かなぁ。」

  医師は、STEの激しいダンスパフォーマンスを思い出し、そう付け加えた。

碧央:「え・・・。」

  碧央は言葉も出なかった。


   碧央はしばらく入院することになった。瑠偉はすぐに退院し、他のメンバーも

  検査の後、家に戻って来た。彼らの事務所と練習場、それぞれの住居が収まるタ

  ワービル、いわゆるSTEタワーに。

篤:「珍しく休みがもらえたし、瑠偉、ボーリングにでも行かないか?」

  みんなで集まれる、リビングのような部屋がある。それぞれの部屋にもキッチン

  はあるが、だいたいこの部屋のオープンキッチンで何か作って、みんなで一緒に

  食べることが多いSTEである。今も6人が一緒にラーメンを作って食べた後であ

  る。

光輝:「あ、いいねえ。僕も行くー!」

瑠偉:「あー、俺は・・・やめとく。」

篤:「瑠偉・・・また碧央のとこに行くのか?」

  瑠偉は、曖昧に笑って、自分の部屋に戻って行った。

篤:「あいつ、いつもなら誘ったら絶対について来るのに。やっぱり、碧央に負い目

  を感じているのかな。」

光輝:「負い目?」

篤:「あの島で、撃たれた碧央を置いて自分だけ逃げたこと、瑠偉は気にしているん

  じゃないかな。今も、碧央が出来ないボーリングに、自分が行く気になれないん

  じゃないかなと思って。」

流星:「それはあるかもな。実際、あの2人に何があったのかは、分からないけ

  ど。」

涼:「そもそもさ、碧央と瑠偉って、最近ちょっとギクシャクしてなかった?フェロ

  ーの前では仲良くしていたけど、それ以外ではよそよそしいって言うか。」

流星:「ああ、確かに。お互いをわざと避けているように感じることがあったな。」

光輝:「でも、島で再会した時にはさ、抱き合って涙流してたじゃん。あれは本物で

  しょ?カメラの前でもなかったし。」

大樹:「そうだな・・・。つまり、2人はお互いを嫌いなわけではないんだよな。た

  だ、何か引っかかっているものがあるんじゃないかな。」

篤:「それに加えて、今回の事件があったし・・・。あいつ、碧央のお見舞いに行っ

  てどうしてるんだろ。」

流星:「俺たちも碧央のお見舞いに行くか。」

光輝:「篤くん、僕たちはボーリングに行こうよ。」

流星:「じゃ、じゃあ、ボーリングに行った帰りに寄ろうか。俺もボーリング行く

  よ。」

  というわけで、篤、流星、光輝の3人は、ボーリングに行き、その帰りに碧央の

  病室へ寄る事になった。


   篤たち3人は、バナナを持って碧央の病室へ向かった。碧央の病室のある場所

  へ行くには、パスが必要である。顔パスではなく、ちゃんと身分証明書を見せて

  その病棟に入る。部外者は入れないようになっている。

光輝:「静かだね。碧央、寝てるのかな。」

  病室の前で、光輝がそう言った。もし寝ているなら起こさないようにと、3人は

  そーっとドアを開けた。すると、中から瑠偉の声が聞こえた。かなり小さい声

  で、

瑠偉:「俺、そろそろ帰らないと。」

  と言っている。碧央は、聞こえるか聞こえないかの声で「ああ。」と言ったよう

  だった。

   ベッドはカーテンで覆われていて、病室に入った時には碧央と瑠偉の姿は見え

  なかった。3人は顔を見合わせ、ニヤっと笑った。脅かしてやろう、とアイコン

  タクト。そして、いきなりシャっとカーテンを開けた。

光輝:「碧央!お見舞いに来たよ!」

碧央・瑠偉:「わっ!」

  碧央と瑠偉は不自然に驚き、瑠偉は大きく飛びのいた。光輝は、最初に目にした

  2人が、思った以上に接近していたような気がしたが、今はどうだ。ベッド脇の

  丸椅子に座っている瑠偉だが、椅子1個分以上ベッドから離れている。

光輝:「あれ?・・・気のせい?」

碧央:「な、何が?」

流星:「光輝、どうした?」

光輝:「いや、何でもない。」

篤:「碧央、思ったより元気そうだな。ほら、バナナ。」

碧央:「お、ありがとう。早速食べようかな。」

瑠偉:「あー、俺はそろそろ帰るね。じゃ。」

  瑠偉は、挨拶もそこそこに、逃げるように帰ってしまった。

流星:「変なやつだな。」

篤:「瑠偉・・・。」

  篤は瑠偉の背中を目で追った。その篤の横顔を、光輝がそっと見つめた。

碧央:「どうしたの?3人揃って来るなんて。」

流星:「ああ、3人でボーリングに行った帰りなんだ。」

光輝:「瑠偉も誘ったんだけどね、あいつは行かないって。お前に気を遣ってるのか

  な?」

  光輝はストレートに言う。篤と流星が「え?」という顔で光輝を見た。

碧央:「気を遣う?どうして?」

  碧央がバナナを頬張りながら言った。

光輝:「分かんないけど、いつもなら瑠偉は誘ったら大体ついて来るじゃん。でも、

  断って、そんでここに来ているわけでしょ?なーんかおかしいじゃん。」

碧央:「そうか?」

篤:「なあ碧央、瑠偉の様子はどうだ?ここでどんな話してるの?」

碧央:「え?どんなって・・・別に大したことじゃないよ。」

  碧央は思わず目を泳がせた。


 流星:「碧央も、様子がおかしいな。」

篤:「ああ、何か歯切れが悪い。瑠偉と何があったんだろう。」

  病室からの帰り道、2人がそう言ったが、光輝は何も言わなかった。カーテンを

  開けた瞬間に見たものが、思い出せそうで思い出せない、もどかしさが襲う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る