第22話 脱走

    広い部屋に入ると、大勢の軍人たちが椅子に座っていた。ステージとなる空

  間が出来ており、オーディオもあった。7人は中央へ並び、曲がかかるのを待っ

  た。

   曲が始まり、踊り出す。世界中で評価されているダンスパフォーマンス。軍人

  たちはSTEを疎ましく思っているはずだが、本物のSTEのパフォーマンスを目の

  当たりにして、息をのんでいる。振り付けの中で、6人が扉の外へハケた時、端

  に座っていた軍人がハッとして廊下に出ようとしたが、またすぐに6人が戻って

  きて踊り出したので、そのまま座った。そして、曲が終わると、拍手喝采、指笛

  ぴゅーぴゅーだった。

軍人たち:「ブラボー!」

軍人たち:「もう1曲!もう1曲!」

  一番前の真ん中に座っていた司令官が目配せし、もう1曲やってもいいという事

  になった。流星が曲名を言い、Shoutが流れた。STEのデビュー曲である。そう

  して、流星が1人になる場面がやってきた。今度は、誰も廊下を覗こうとはしな

  かった。


   STEのメンバーたちは、走った。恐らく入って来たと思われる方角へ、廊下を

  走っていった。すると、入って来た搬入口にたどり着いた。ただ、あの箱(元エ

  レベーター)があって、天井は空いていても、そのまま外へ出られなかった。

碧央:「どうする?」

瑠偉:「飛び越えるしかないな。」

  瑠偉はそう言うと、少し下がってから、助走を取り、箱の上へ飛び乗った。

涼:「わぉ、すげえ。さすが瑠偉。」

  瑠偉は、箱の上から屈んで手を伸ばした。来い、と手招きする。まず、碧央が走

  って行って瑠偉の手を取り、もう片方の手で箱の天井にしがみつき、瑠偉に引っ

  張ってもらって、何とか箱の上へ上がった。そして、向こう側へ飛び下りる。さ

  あ、もう1人、と瑠偉が手を伸ばした時、流星が走って来た後に軍人たちも走っ

  てやってきた。STEはみな足が速いが、さすがに全員がこの箱を乗り越える時間

  はなかった。

流星:「瑠偉、行け!何とか、助けを呼んでくれ!」

  軍人が、箱の上に乗っている瑠偉に銃を向けた。そして、パン!と銃声が。みな

  がハッと息をのんだ。だが、瑠偉は無事に外へ飛び下り、碧央と一緒に走り去っ

  た。


   瑠偉と碧央は逃げたが、残りの5人はまた檻の中へ連れ戻された。

軍人A:「まったく、手間かけさせやがって。」

軍人B:「あ、一番かわいい子に逃げられた。あのハンサムくんも。」

軍人C:「勿体ないなあ、ただで逃がしちゃ。せっかくの上玉なのに。へへへ。」

  何やら不穏な様子に、5人は顔を引きつらせた。

軍人C:「よく見ると、可愛い顔してんじゃねえか。え?」

  軍人の1人が、篤に顔を近づけた。そして、お尻をポンと触った。

篤:「うわっ!」

  篤は驚いて飛び上がった。

軍人B:「本当だ、こっちも可愛いし。イヒヒヒ。」

光輝:「な、なんだよう。」

  近寄られて、光輝は大樹の後ろに隠れた。そこへ、もう1人の軍人がやってき

  た。

軍人D「おい、ゴールドいるか?」

光輝:「は、はい?」

軍人D:「お前か。司令官がお呼びだ。来い。」

光輝:「え?」

篤:「ちょっと待て、どうしてゴールドだけ呼ばれるんだ?」

軍人D:「司令官が、ゴールドのファンだそうだ。食事を一緒にと仰せだ。」

光輝:「え・・・どうしよう?」

  光輝が不安そうに振り返る。軍人が光輝の腕を掴んだ。

流星:「待て!俺も行く。」

  流星が、さっと光輝の腕を掴んでそう言った。

軍人D:「ダメだ。」

流星:「俺と一緒じゃなきゃ、こいつを渡さない。」

  流星は譲らない。

軍人D:「どうする?」

軍人A:「ゴールドだけを連れて来いと言われたのか?」

軍人D:「いや、ゴールドを連れて来い、と言われただけだが。」

軍人A:「なら、とにかく2人とも連れて行けばいいんじゃないか?」

軍人D:「そうだな。よし、お前も来い。」

  と言うわけで、流星と光輝が司令官の部屋に連れていかれたのだった。


 司令官:「・・・なぜこいつもいる?」

軍人D:「申し訳ありません。こいつが、自分も一緒でないとゴールドを渡さないと言い張りまして。」

司令官:「そうか。まあ仕方ない。離れた所に座らせろ。」

  司令官は、光輝を自分の前に座らせた。光輝は不安で一杯である。司令官と流星

  とを交互に見ながらソワソワしている。

流星:「光輝、大丈夫だ。俺が絶対に手出しさせないから。」

光輝:「う、うん。」


   檻の中では、3人になってしまって不安な篤、涼、大樹であった。ましてや、

  ニヤニヤしながら篤を見る軍人もいる。

篤:「はあ、なんなんだよ、これ。耐えられないよ。」

大樹:「篤くんの事は、俺たちが守るから。」

涼:「碧央と瑠偉はどうしてるかな?誰かに会えたかなぁ。」

篤:「あいつらだけが頼りだな。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る