第7話 再戦
再度挑もうと立ち上がった四人は武器を手に元来た道を戻って行く。
ソーニャはやはりまだ怖いのか何度も振り返りながら先頭を進み、見兼ねたレナータはリザードが現れたら後ろに下がるからと、前に出てソーニャの隣を歩く。
優しいレナータに少し笑顔を作って見せるソーニャだが、ダガーを両手に握り締め、その手はわずかに震えている。
一度恐怖を覚えると立ち直るまでに時間が掛かるものだ。
「リザードを見つけたらこっちから仕掛けるよ。ソーニャには……怖いかもしれないけど真っ直ぐに向かって行ってほしいの」
「え、でも私は……」
「あのリザードは頭がいいみたい。考えてから行動する事の強みを知ってるから、考える時間を与えない方が有利に戦えると思うんだよね。リザードの攻撃がソーニャに向かわないように私が牽制するし」
そう提案したレナータはソーニャに説明する。
リザードは向かって来たソーニャに警戒して身構えるが、そこにレナータが矢を放つ事でリザードはそれを躱さなくてはならない。
もし避けずに当たる事になればソーニャへの対応も少し遅れる事になるだろう。
もし回避行動を取ったとしてもレナータにも警戒を強めるはずだ。
そこでリザードに考える間を与えないようソーニャが攻撃を仕掛ければ攻勢に回る事ができる。
「問題があるとすればマリオが倒せるかどうかなんだけど……動きを止める事ができないと難しいかもしれないなぁ。倒せればそれが一番いいんだけど、ね。でも私が必ずソーニャを守るから。私に背中を預けてくれない?」
「……うん。私一人じゃないなら行ける、かな」
レナータの話し方はソーニャに対して相談しているように聞こえる。
同じ元パーティーメンバーではなく新入りの自分にだ。
そしてソーニャよりもアタッカーであるマリオが倒せるかが問題だと言う。
「もしマリオが倒せないようならすぐに逃げるから。ソーニャはマリオとジェラルドを置いて私のところに逃げて来て」
「わかった。私の【エアレイド】は瞬間的な加速だから逃げるのに向いてるの!逃げてもいいなら安心っ」
攻撃にも向いてると思えるスキルだが、スキルには再使用時間がある為、この危険な戦いでは回避に使用してもらうべきだろう。
数時間前にリザードと戦闘した付近にまで戻って来たがその姿は見えない。
警戒を強めながら先に進んで行く。
しばらく行くと乗って来た馬車が見えたのだが、馬はすでに殺されていた。
人力で運ぶには重すぎる為、荷物だけ運んで帰る事になりそうだ。
しかしここで下手に馬車に乗り込もうものならリザードが狙っている可能性もあり危険である。
荷物を運び出すとしてもまずはリザードの姿を確認する事が先決だろう。
ソーニャが周囲を見回し、感覚を研ぎ澄ませて集中すると馬車に意識を向けているリザードの位置がわかる。
「あそこ、あの草むらにリザードが潜んでる」
今見える場所から馬車より右手の草むらに隠れ、襲いやすいよう潜んでいるようだ。
それならばとレナータはマリオとジェラルドに指示を出す。
「ジェラルドとマリオは馬車まで行ってリザードに襲われて」
「「おい!」」
二人同時にツッコむもレナータは無視して話を進める。
「ソーニャは二人が襲われる寸前に声を出しながらリザードに向かって。注意が逸れた瞬間に私が矢を射るから。それとソーニャの声に合わせてジェラルドは体当たり、マリオは攻撃の準備ね」
レナータの作戦はリザードを混乱させるのが目的だ。
自分が攻撃に向かおうとしたところで背後から向かって来るソーニャ。
ソーニャに対応しようとしたところにレナータの矢が射られ、当たっても当たらなくても攻撃から迎撃、防御へと思考が切り替えられ、そこにジェラルドとマリオで畳み込み、こちらが攻勢に出ようというものだ。
「俺達が最初の囮って事か……奴がいくら速くても向こうから近付いて来るならなんとかなる。悪くない。やってみよう」
「俺が怒鳴った事をまだ怒ってるのかと思った……」
ジェラルドに続いてマリオも馬車へと向かう。
レナータは近くの木に隠れ、ソーニャはリザードの後ろ側へと回り込む。
ジェラルドが馬車に触れ、マリオも草むらを見つめながら馬車までたどり着くも襲って来る事はない。
見られていれば隠れている意味はなく、リザードが奇襲するはずもないのだが、マリオは一度襲われた恐怖から目をなかなか離す事ができない。
ジェラルドがマリオを馬車の裏側へと促し、草むらから視線を外してやるとリザードが動き出した。
草むらからリザードが飛び出す同時に、後方からソーニャが「わあぁぁぁあ」と声をあげて走り出す。
ジェラルドが声に反応してリザードに向かって盾を構えると、リザードはソーニャに振り向いて体の方向を反転。
それに合わせてジェラルドが駆け出し、マリオもその背後を追うと同時にリザードの右胸に矢が突き刺さった。
悲鳴をあげたリザードはソーニャに向かう事を諦めて身を屈めると、ソーニャがダガーを肩に突き立てる。
すぐにダガーを引き抜いたソーニャは飛び退り、ジェラルドが体当たりしてリザードを倒し込む。
そのまま盾で押さえ込み、倒れたリザードにマリオはスラッシュを発動して剣を振り下ろした。
押さえ込まれながらも右の爪を薙いで剣を受け、そのまま暴れてジェラルドの体を傷つける。
金属製の鎧のおかげで大きな傷を負う事はないものの、その隙間から少しずつ傷を付けられて押さえる力が弱まっていく。
この状況ではソーニャにできる事はなく、マリオはスキルの再使用時間を待ち、駆け込んだレナータが回復スキルを発動する。
「ソーニャ!弓と矢!これで頭を狙って!」
「ご、ごめんっ、使った事ないよぉ」
「わかった!そのまま構えて待機してて!ジェラルドごめん!踏むよ!」
「え!?うぐぉっ!!」
レナータはヒールの発動箇所を足へと移し、ジェラルドを踏み付けながら弓矢を構える。
「弾かれたらごめん!」
リザードの顔面目掛けて放った矢が左頬に突き刺さり、二射目は爪に弾かれて馬車に刺さった。
「レナ、退け!」
再びスラッシュを発動したマリオが剣を振りかぶってリザードの首へと振り下ろす。
しかしまたも爪に防がれて後退し、ジェラルドの上に立ったレナータはバランスをとる為、背中に右足、頭に左足を乗せて弓矢を構える。
「ジェラルド、私が少し踏みつけを強くしたら首を左に傾けて!」
「え?頭……踏まれ……え?強く?わかった!」
そして踏みつけが強くなった瞬間に首を傾けたジェラルド。
真正面にリザードの顔が見えた瞬間に矢を射るレナータ。
完璧な連携により矢はリザードの首筋に突き刺さり、地面に首が固定されて次に外す事もなくなった。
しかしまたも二射目は爪に阻まれ、今度はジェラルドの鎧に当たって落ちる。
「よし!今度こそ!」
再びスラッシュを発動したマリオが首筋目掛けて振り下ろす。
「なんでだよ!!」
またも爪によって防がれ、悔しそうな表情をしながらレナータに譲る。
「ジェラルド、またさっきと同じ!」
「お願いします!!」
不思議な返答をするジェラルドを気にする事なく再び弓矢を構えるレナータ。
しかし側から見るとジェラルドの後頭部に矢を向けるレナータという異常な光景。
ジェラルドを踏み込んで矢を放つもまた爪に阻まれ、次の矢を構えて狙いを定める。
「次行くよ!」
「あっ、ありがとうございます!!」
さらにおかしな返答をするジェラルドだが構わずタイミングを取るレナータ。
しかしここでリザードが尻尾を使ってレナータの足を打ち払い、レナータが落下するとジェラルドの力が緩む。
すぐさまジェラルドの盾を蹴り上げて、首から地面に突き刺さった矢を引き抜き立ち上がる。
「くらえぇえ!!」
マリオのスキルを発動した剣が振り下ろされ、その声に反応して前方へと回避行動に出たリザードは、背中に深い傷を負いながらも逃げ出す。
それを追ったソーニャがダガーで斬り付けるも、振り抜かれた爪を受けて後方に転がり、トドメを刺す事は叶わなかった。
「くっそぉぉお!!逃げられた!!」
リザードを逃した事に憤慨するマリオ。
「なんで邪魔をするんだ!!」
誰が何の邪魔をしたのかわからないが叫ぶジェラルド。
「ソーニャ大丈夫!?」
「ごめんレナ。逃げられちゃった……」
「怪我は、ないんだね?良かったぁ……」
ソーニャとレナータは全員の無事にホッと胸を撫で下ろした。
ある意味一人だけ無事じゃない者もいるのだが誰も気付いていないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます