第6話 もめる

 しばらく休憩をして少し落ち着いてきたところでジェラルドが話を切り出す。


「この後どうする?悪いが俺の動きでは奴を抑える事はできない。向かって来たなら受け止める事もできるがあのリザードは賢い。固い俺を無視してお前達を狙うだろう。奴を倒すとすればソーニャの働きに掛かっているが……いけるか?」


「むり、無理だよぉ。あんなの今まで相手にした事ないし……私死んじゃうよぉ」


 ジェラルドに問われた事で落ち着いていた体はまた震え出し、レナータに抱きついたソーニャは嗚咽をもらす。


「くそ、油断した……まさか背後から狙われるとはな」


 普段であればここで声を荒げているマリオも、自分の失態から危機に陥った事に静かに歯を食いしばる。


「だがこのまま引き下がるわけにはいかねぇ。もう少し休んだらリザードを倒しに戻るぞ。その為にはソーニャ、お前がリザードを引き付けておかないと話にならねぇ。わかるだろ?」


「え……」


「リザードを引き付けつつ翻弄しろ。体力を削れとまでは言わねぇ。ジェラルドが奴を抑えられるまで引き付けておくんだ。そしたら必ず俺がトドメを刺す。信じろ」


「い、いや、嫌だよ」


 涙を流しながら首を横に振るソーニャを見て舌打ちをしつつ、もう少し待つかとジェラルドに目を向ける。

 ジェラルドもマリオの視線に頷くが、レナータは二人の考えとは逆の提案をする。


「もう諦めない?私達ではあのリザードを倒す事はできないし、ソーニャもこんなに怯えてる。これじゃ戦う事なんてできないよ」


「レナータ。俺達は元SS級パーティーだ。あんな不意打ちでもねぇ限りAA級モンスター相手に負けるわけねぇだろ」


 マリオはリザードに勝てると、負けるはずがないと思っているようだ。

 しかしリザードの素早さはソーニャ以上であり、ジェラルドやマリオでは触れる事すらできないだろう。

 レナータの弓矢でさえ少し距離が離れれば当たる気がしないのだ。

 対面していれば近距離でさえ避けられる可能性がある。

 レナータがどう考えても今のパーティーメンバーでは倒せるとは思えない。


「よく考えてよ。間違ったら死ぬかもしれないんだよ?それにザックさんだって言ってたじゃない。私達はディーノに頼りすぎてたんだよ!ディーノがいたからSS級パーティーだったんだよ!?」


 ディーノの事を思い返して涙が流れ、声を荒げるレナータ。


「ディーノ……あいつも確かにSS級のメンバーだったんだ。そりゃ今のソーニャよりは強かったかもしれねぇ。だがまだ俺はリザードと戦ってねぇんだ。俺がたかがAA級モンスター如きに負けると思うか?」


「思うよ!」


 バッサリと言い切るレナータ。


「なっ、お前!俺の実力を疑ってんのか!?ふざっけんな!この俺がリザード如きに、ディーノがいねぇと勝てねぇとか本気で思ってんのか!?」


 立ち上がってレナータに掴み掛かるマリオを咄嗟にジェラルドが止めに入る。


「ずっとジェラルドの陰に隠れてばっかりのマリオがどうやって戦うつもり!?」


「ああ!?」


「待て待て、待てって!あまり感情的になるな!なっ?落ち着けよ二人とも……今はリザードの不意打ちもあって動揺してるんだ。もう少し落ち着いてからどうするか決めよう。だから、な?座れって」


 ジェラルドに止められて少し冷静になるレナータも、このままパーティーを崩壊させるわけにもいかないと少し考える。

 マリオは舌打ちして離れた位置に座った。




 それから雰囲気が悪いまましばらく時間が経った頃。


「マリオ、ごめん。言いすぎた」


 不貞腐れるマリオに先に頭を下げたのはレナータだ。


「……ああ。俺も怒鳴って悪かったな」


 マリオは頬杖をついたままそう返すが、本人もパーティーを崩壊させるわけにいかないと考えていたのだろう。

 素直にレナータに謝り返す。


「でもね、マリオ。私達ブレイブはパーティーを再結成したばかりでしょ。前衛に出るソーニャには負担が大きいと思うの。だからAA級パーティーからは始められなくなるけど、リザードの討伐は諦めてBB級パーティーからまたやり直そうよ」


 レナータの提案に嫌そうに顔を歪めるも、ソーニャを見れば今も目元に涙を溜めている。

 自分が好意を持ったソーニャが泣いているのだ。

 マリオも考えを多少は改める。


「レナの言う事もわかるけどよぉ、やっぱもう一回挑もうと思うんだよ。俺はこのパーティーなら勝てると思うし、王都に帰るとすりゃ馬車も荷物も必要だ。もし危ねぇと思ったら荷物だけ持って逃げりゃいいし。なぁ、ジェラルドはどう思う?」


 諦めようと提案するレナータともう一度挑もうと言うマリオ。

 ジェラルドなら再戦をしようと言うのはわかっている事だが、今はパーティー全員の意見を出し合うべきだろう。


「俺もマリオに賛成だ。俺達なら勝てるさ。あとはソーニャ次第だが……いざとなったら逃げればいいし、どうだ?やってみないか?」


「私は……戦いたくないけど……冒険者だから……」


『クエストに命を賭けてこそ冒険者』

 ギルドでも誰もが口にする言葉だが、本当に命を賭けて冒険したい者はそうはいない。


「そうだ。俺達は冒険者だ。勝てねぇんなら逃げてもいい。どうだ、やってみようぜソーニャ」


 マリオが笑顔で誘ってくるのを見てソーニャは怯えながらも頷く。


「うん。ちゃんと守ってね」


「もちろんだ!」と言うマリオとジェラルド。

 三人がまた挑むと言うのであればとレナータも「わかった」と頷くしかない。


「ただし!私が逃げてって言ったら全員従う事!約束してね!」


 これだけは譲れないと、指を差して宣言するレナータだった。

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