いつかマスクが取れたなら

水無月ひよ子

第1話

いつかマスクが取れたら。


最近のこいつの口癖だ。


「ねぇ、前に言った温泉いこうよ!温泉!」


「温泉?良いけど…」

男女で行く温泉って…。しかも付き合っていない男女が。

色々思うところはあるが、とりあえず

「俺、温泉地まで行ってゲームしないからな。」

「なんで!?まだまだ狩りはこれからなのに!?」

「一生素材集めでもしてろ。」


「え、じゃあさ、じゃあさ、逆に何したい?」

「え…?」


突然の質問に、モンスターを狩る手が止まった。


いつもいつも、毎週金曜日の夜は、こうやって通話をしながら夜通しゲームを二人でやっている。

もう、いつからだろうか。

あいつの顔、見てないの。


顔が見たいだなんて言ったら、

あいつはなんて言うのだろう。


「なんだろうなぁ。居酒屋行くかな。」

「良いねぇ、のものも!」


あいつの去年の夏の誕生日。

その日に2人で飲む約束をしていた。

本当はその時に、伝えるはずだったのだ。


少し残念そうに、仕方ないよ笑った。


恐怖と不満が充満するこの狭い狭い檻の中で、

「いつか」の話を、目を輝かせて言うあいつを

正直羨ましいと、思うのだ。


何も分かってないようなのに、

なにか分かっているみたいに、

大丈夫と言う。

その言葉の、どれほど頼もしいことか。


何故か、俺はその言葉にずっと支えられている。


いつかマスクがとれたなら、

俺はあいつになんて言おう

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いつかマスクが取れたなら 水無月ひよ子 @peperom

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