エイワズ・ナート ~異世界嫌者は手を伸べる~
甜白 和叉
プロローグ
紅の帳は斬って落とされる
赤く染まった城下にて、自身より何倍も広い土壁を背中で懸命に押し続ける少年は、反対側から容赦なく襲い掛かる荒々しい衝撃に歯を食いしばって耐える。
背後が揺れるたびに壁の表面から欠片が砕け墜ち、土煙があがる。少年も障壁も、崩壊するのは時間の問題であった。
しかし少年は決して身体を退かない。
この壁は希望と絶望を分かつ垣根、背を離して決壊を許せば息まいた者が皆一斉に彼のいる場所へとなだれ込む。
そうなればもはや手は付けられない、ならば踏みこたえるより他に道はない。
「案ずるな、この一太刀で確実に終わらせよう」
死力を尽くす少年に、鎧を
鎧の男は
「待って……くれよ、頼むから」
天を
口から漏れ出たかすれ声はもはや誰に届くものでも、誰に対するものでもなかった。すべては己の無力さゆえの願望であり、淡く甘い子どもの駄々が同意など得られるはずもない。
全身を覆うほどに存在する
「まだ、何も返せてねえんだよ……これで終わりにするわけにはいかねえんだよ……!」
少年は割れた石畳を踏み抜かんほどの力を足に加え続けた。
しかし彼の体を支配するのはもはや理のない意地。打開策を講じるほどに八方はことごとく塞がれていく。今の少年にはただ
「英雄は――もはやこれ以上必要ない」
光芒は
「やめ――」
無情にも語末は遮られ、光剣が壁と少年を一閃した。
その瞬間、濁色した
青く晴れ渡る空は少年を絶望の淵へ突き落すには十分すぎる光景だった。
城の頂で鳴り響く
――これは全て俺の、
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