焚火の朝

 念のため、寝袋の上に備え付けの毛布を掛けて炎上対策。テント内はほどよく暖まり、私にはほどよくお酒が入り、気持ちよく眠りについた。


 ……んだけど、寒さで目を覚ます。焚き火を見るとかろうじて熾火おきびが残っている程度。火の周りを囲むように置いていた木材と薪を投入して、これまた備え付けのうちわで扇ぐ、ひたすら扇ぐ。暫く扇いでいると何とか細めの薪がぱちぱちと音を立てて燃えはじめた。そして火力が安定してきたのを確認してまた寝袋に潜る。

 以降、こんな感じで寒くなって起きては薪を追加。それを一時間おきに繰り返していると、何回か目に天井の通風口から雨が吹き込み始めていることに気が付いた。


 確かに当初の天気予報は雨だったので、当然なんだけど、ここまで持ったならもう少し頑張ってよね。この深夜に外に出て通風口の開き具合を調整するのは気が進まなかったので多めに薪をくべて対処することにした。

 なので、以前孝子と泊まった時にはそこそこ余った薪も、朝方には使い切る感じで若干ヒヤヒヤした。


 夜を乗り切り、八時くらいまでだらだらしながら荷物をまとめて九時には出発。

 あとは家に帰るだけだけど、レインウェアを持ってきていない私は完全にやらかし系。学生の頃、サークルに晴れ男がいたので「どうせ降らないだろう」っていう変な油断が染みついていた。


 麓のコンビニでとりあえず一時しのぎ用の雨合羽を物色してみると、上下別々で併せて千円近くで割としっかり目なレインウェアが売っている。本当に便利な世の中。少し値は張ってしまうが、ここでケチるよりも己の間抜けさに対する教訓としてこの出費を受け止めよう。


「これ着ても寒かったら新聞買ってお腹に入れるといいわよ」レジを打つ上品な佇まいのお婆様がお釣りと一緒にアドバイスをくれた。二言三言交わすと、どうやら昔バイクに乗っていたとか。

 伊豆はツーリング客が多いからコンビニでもそこそこな合羽を置いてあるのかなと思ったけど、このお婆様が発注したのかもね。実際のところなんてわからないけど私はそう思いたい。


 脳内防具屋のオヤジが「ここで装備していくかい?」と聞いてきたので、まだ本降りにはなっていないが駐車場でレインウェアを着込む。

 着終わる頃には雨脚が強まる気配。「そんな装備で大丈夫か」と聞かれないように高い方にして良かった。


 そしてここまで装備してしまうともう出来る限り途中で止まりたくないのがバイク乗り。ふと、雨で視界の悪くなった復路で、道に迷って道路脇でスマホを弄ってる未来像が視えたので、もう一度コンビニに入って養生テープを買ってきた。

 今日日きょうび殆どのスマホは防水仕様。スマホのナビアプリを立ち上げたまま画面が見えるようにタンクの上に貼り付ける。

 これでヘルメット内蔵スピーカーにBluetoothで飛ばしているナビ音声と併せて視覚的にも裏付けが取れる。


 そうして走り出した帰り道はなかなかのハードモードだった。伊豆縦貫道の横風に煽られた後、大粒の雨の刺さるような痛みを全身に受けながらぶっ通しで走り続けた。

 家に着いた時、バイクに乗って走ったことよりも、兎に角何かをやり遂げた感だけが残った。


 今回、思い付きで貼っつけたスマホなんだけど、見た目は正直どうかと思うけど、これはかなり便利が良かった。

 結局道に迷うことはなかったんだけど、道順以外にも道路の混み具合をある程度確認出来る事で、渋滞をすり抜けて行くか車列に従って渋滞解消を待つかの判断に役立った。


 今までは変に意地張って頑なにスマホホルダーの類を付けてなかったんだけど、今度バイト先でタンクバックかスマホ用マウントでも物色してみようかな。

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