彼の。彼女の。
(注:本文中にネタバレを含みます)
「ボババババ」から「ボッボッボッ」と音を変化させて一台のバイクが我が家の前に停まる。
玄関を出て迎えに行く。
「お疲れー」
外に出て着いたばかりのバイカーに声を掛ける。
背中に派手なペイントが施された細身のライダースジャケットに身を包んだ彼女。マットブラックのフルフェイスを脱ぐとベリーショートのアッシュヘアーが露わになる。両耳についた幾つものボディーピアスを光らせて毛利洋子が微笑む。唇にもピアスを付けていたが、キスする時に邪魔になるので私が外させた。
「お腹空いたー」と言いながらハグしてくる。そのまま二人玄関になだれ込み押し倒される。
「んぐ」激しく求めてくる洋子の舌に私の舌を絡ませる。
「ぷはっ! どうしたの?」
「今週の仕事超ハードでストレスマックス」
「それで欲求不満もマックスなのね」
「んっ」回答は口づけ。私が着ているスウェットを捲り上げて、そのまま両腕を頭の上まで上げた所であらわになった胸の先っちょを洋子が口に含んで転がす。万歳の姿勢のまま、くすぐったいような感覚と背中が痒くなる様な感覚が同時にやってきて思わず腰をのけぞる。
結局、そのまま玄関で混ざり合った私と洋子。充分に余韻を楽しんでからゆっくりと立ち上がり、産まれたままの姿で抱き合った。
それぞれ無言で自分の衣服を拾ってリビングに行く。
「パスタでいい?」
「もうお腹空いてないからおつまみだけでいいかも」と部屋着を着ながら洋子。
「それ、いっぱいになったの食欲じゃないから」
お酒と少し食いでのあるおつまみを用意して、借りてきたDVDを再生する。
大学を卒業後、月に一度か二度程こうやって洋子と一緒にバイク映画を観ている。
食事と映画とセックス、いつも順番は決まってないけど必ずこのセットメニュー。そうだ、お得な
映画は効果的に白黒からカラーへとシーンを変化させながら進んでいく。
走りながら語っていくスタイルではなく、伝えたいことはシンプルに言葉で伝えていく。バイク映画としてはわかりやすいかも。それほど重いテーマもなく、バイクで走る事の尊さが瀬戸内海の美しい景色と共に伝わってくる。
「良かったねー『好きなのよ、カワサキが』とか言ってみたい!」とカワサキ党の私。
「随分前に見た何とかダイアリーよりわかりやすかったね」と洋子。その映画選んだの洋子だけどね。
「最後、ありきたりな事故って終わりじゃないとこもいいね」
「……でも、これ映画での改編みたいよ」と洋子がスマホで調べながら応える。
私も調べてみると、確かに原作では事故死になっているようだった。
一昔前の映画を観ていると、衝撃的な終わり方ブームみたいな時期があった。今はハッピーエンドが見直されていると感じる。
こんな昔の映画で、事故死の部分の改編だけではなく、その後のツーリングでの一幕まで描かれているのが良かった。
次は何を観ようかな。
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